名前も知らない男性に手を引かれて暗い部屋に案内された。
その部屋に入ると、男性はボクに抱きついてきた。そして自分の服を脱ぎながら、ボクの服も脱がし始めた。
どうしたらいいのか分からず、緊張したまま彼のされるがままに任せていた。
服を脱がされながら、部屋の中に目を移した。
部屋のカーテンは閉められていて、その隙間から入ってくる街灯の光が、ぼんやりと部屋を照らしていた。敷布団と毛布が目に入った。布団の側にはティッシュ箱があって、雑誌や衣類が散乱していた。ストーブの他には家具のようなものは置いてなかった。
汚い部屋だな……
緊張しつつも部屋の様子を冷静に観察していた。
年齢は30歳だと聞かされたけど、目尻にシワがあって、もう少し年上なんだろうと思った。相手の男性の髪は茶色に染めていた。甘えた感じの女性のような喋り方をしていて、恐らく会話している相手は、彼が「ゲイじゃないだろうか?」と感じてもおかしくなかった。痩せていて、ボクと同じくらいの小柄だった。
この部屋に来たのは、きっとボクだけじゃないだろうな。
彼の手慣れた感じから、なんとなく感じられた。出会ってから部屋に入るまで、もう何度も同じことを繰り返しているみたいだった。
ボクが部屋に入る前からストーブがつけられていた。先に布団も敷かれていた。まるでこうなることが分かっていたみたいだった。
ゲイ向けの出会い系の掲示板を経由して、誰かの家に行ったのは初めてだった。
待ち合わせ場所は、彼のアパートの前だった。夜遅くて、ボク以外に歩いている人はいなかった。
彼はアパートから出てきて、体を震わせながら
「寒いから部屋に入らない?」
と声をかけてきた。真冬なのにコートも何も羽織っておらず、薄めのセーターを着ているだけだった。
エレベーターに乗って部屋まで案内された。玄関のドアが閉まる音を聞いて、もう逃げることはできないと感じた。
ボクのことを誰でもいいから愛して欲しかった。
なんとなく彼の言うことを聞いていれば喜んでくれて、ボクのことを好きになってくれるかと思っていた。
この頃のボクは今みたいに図太い性格ではなった。まだ自分という人間が、どんな人間なのかよく分かっていない時期だった。自分という人間の存在を認識するのに、別の誰かの存在が必要だった。
ボクは服を脱がされて下着姿になった。脱がされた服は足元に投げ捨てたままだった。
相手の男性からキスを何度かされて、ボクらは布団に横になった。
<つづく>