僕が一番欲しかったもの<13>

それからボクは初対面の人に対して「バックはしない」と、はっきり宣言するようになった。相手から「ノリが悪い」と言われたことも何度もあったけど、別に言われても気にしなかった。

自分の身を守るのは自分の意志だけだと思っていた。

呆れて相手が去っていく足音を聴きながらも、その意志だけは絶対に曲げないと思った。

ボクはもう

自分の未来を自分で消したくはなかった。

病気に怯えて先が見えない日々を味わいたくなかった。

こいつは病気持ちだから注意した方が良いよ。

あれから「ゲイ向けの出会い系の掲示板」や「有料ハッテン場の掲示板」で、同じような書き込みを何度も見かけた。

その人って顎に髭がある人ですか? 何の病気なんですか?

そういった根拠のないコメントの下についている、不安に満ちて怯えるコメントを読んで心が傷んだ。次々と不安に満ちた投稿が続く中、ボクは大学時代に味わった出来事を思い出した。

この投稿している人たちが、本当に病気にかかっているかは知らない。

でも、もし病気にかかっていなかったのであれば、もう少し慎重に行動するようになって欲しいと思った。今感じている不安を大切にして欲しいと思った。

ボクは見知らぬ誰かと出会ってセックスした。

その誰かはラッシュを吸って、強引にバックを経験させられた。

そして、自分の中に隠されている感情を知ることができた。

セックスが気持ちいいと思ったこと。

「もしかしたら病気になったんじゃないか?」と怯えたこと。

ボクの精神が意外と脆かったこと。

まだ死にたくないと思ったこと。

ある所まで精神的に落ちていったら、開き直ることができたこと。

多分、見知らぬ誰かと関係を持たなかったら、自分がこんな感情を持っていることに気がつくことはなかった。それ彼との肉体関係から残った財産だった。

あの出来事以降、ボクが「タチ」と「ウケ」のどっちのポジションで、どれだけの相手とバックをしたのかは秘密だ。もしかしたら0かもしれない。0じゃないかもしれない。

ただ、ボクはよく有料ハッテン場や野外のハッテン場で出会った人と話してばかりした。

何時間にも渡って、ずっと話ばかりをしていた。むしろ肉体的な関係を持っている時間よりも、話をしている時間の方が楽しいことに気がついた。どんな人たちと出会って、どんな話をしたのかは、また別の機会に短編集のような形で書いていこうと思う。

ボクだってセックスをしてみたい。

初めてバックを経験した快感を思い出して、体がウズウズする時がある。

でも彼との経験から、肉体的なつながりよりも精神的につながっていたいと思うようになった。年齢を重ねるごとに、この考えの方が強くなっているように思う。

最近は、この考えをこじらせすぎているような気がする。

例えば、好きな人と一晩、部屋で一緒にいても、何の肉体的な接触もしないで済むようになった。別れ際に「好きだよ」という思いを込めて、頭を撫でるぐらいで済むようになってしまった。

ボクの一時的な肉体的なつながりという欲求に従って行動するよりも、もっと精神的なつながっていたいと思うようになった。なんだかとても子供ぽいような考えだけど、もうそれでいいやと思う。

<終わり>