深夜のカミングアウト<16>

ボクと村上君とA先輩の3名で、ある地方都市に出張に行くことになった。

普通の出張であればホテルに泊まるけど、その地方には社員寮があった。ボクらはプロジェクトが終わるまでの1週間ほど、一緒に寮に泊まることになった。

出張の最終日。仕事が全て終わってから、近くの飲み屋で3名で打ち上げをした。そして酔っ払った先輩を連れて寮まで戻った。

A先輩は「朝風呂に入るから、このまま寝る」と言って玄関手前の部屋に入っていった。A先輩が、敷きぱなしの布団の上に倒れるのを確認して、ボクらは電気を消してドアを閉めた。

ボクと村上君はアパートの奥の方に並んだ、2部屋が割り当てられていた。

ボクらは交代で風呂に入ることにした。

村上君が先に風呂に入ることになって、しばらくして「もう使っていいよ」と、ドア越しに声をかけられてから風呂場に向かった。

ボクらは一週間ほど同じパターンで過ごして来たから、この生活に慣れていた。

ただ一点だけいつもと違っていた。

脱衣所に入ると、なぜか洗濯機の上に村上君の下着が置いたままになっていた。

きちんと折畳まれた紺色のボクサーパンツが目についた。

一瞬、パンツに触れてみたいという誘惑に駆られた。

でも何とか我慢した。

ボクは風呂に入って、体を拭いてから寝間着を着て部屋に戻った。A先輩の部屋からは、豪快ないびきが聞こえた。村上君の部屋の前を通るとドアの隙間から灯りが見えた、それからテレビの音がかすかに漏れていた。

自分の部屋に戻ってから部屋の電気を消した。そして布団に寝転がって携帯を手に取って、

いつ襲いに来てもいいですよ。きちんと体も洗ったし受け入れる覚悟はできてますよ。

というメールを、隣室の彼に送った。

アホだ。どう考えてもアホすぎる。自分でメールを送っておいてなんだけど、好きな人とはいえノンケ相手に、なんてバカなメールを送っているんだろうと思う。

社員寮とは言っても、3LDKの賃貸アパートだから、各部屋には鍵もかけることができなかった。ボクらの間には薄い壁が一枚しかなかった。

隣の部屋からメールの着信が小さく聞こえた。

彼が起き上がって携帯を確認している気配がした。「あんなメールを受け取って困ってるだろうな」と、いたずらっ子のように寝転がったまま笑った。

1分もすると、彼から返信が着て

絶対に襲いませんから安心して寝てください。

と書かれているのを読んで、「ちぇ……襲ってくれていいのに」と不貞腐れた。

ボクは寝転がったまま、壁に手を当てた。

この薄い壁の向こうに側に、1メートルも離れていない距離に、彼が寝ているんだと思うと不思議な気持ちになった。

今日で出張は終わりだ。明日からは、いつも通りの一人暮らしの部屋に戻るんだ。

そう思うと切なくなった。彼の気配が感じられる生活に既に慣れてしまっていた。

そしてボクは無意識のうちに「ある言葉」を入力して彼にメールしていた。

<つづく>