深夜のカミングアウト<18>

もしかしたら私の方が、もっと他人に言えない秘密を抱えているのかもしれませんよ。神原さんは男を好きだと言っているけど、こっちからすると大したことじゃないかもしれません。
これはあくまで例だけど……

その文章の続きは書くことはできない。

ただ彼はゲイじゃない。こんな言葉は当時はなかったけど、バイでもない。トランスジェンダーでもない。アセクシャルでもない。もちろんレズでもない。そういった性的マイノリティとは全く別の彼の秘密が書かれていた。

あくまで例として書かれていたけど、彼本人のことを言っているのは分かった。

……。こういった人もいるかもしれない訳です。

ボクは彼から送られたメールを読んで、

あぁ……そういうことだったんだ。

と思った。

ボクは毎日のように彼に対して「告白メール」を送っているけど、それを嫌がることなく、受け流してくれて理由が分かった。いや正確に言えば、少し理由が分かった気がした。

人は誰でも他人に言えない秘密を抱えている。

それはボクらに限った話しじゃなくて、皆多かれ少なかれ何か言えない秘密を抱えている。そんな当たり前のこと、頭では分かっているつもりだったのに分かっていなかった。いつのまにか自分がゲイだということを隠して生きているということに頭が一杯になってしまっていた。毎日のように仕事のことばかり考えて、孤独と向き合う時間を作らないようにして、先が見えない生活をしていて、自分だけが秘密を抱えて生きているつもりになっていた。

私からすれば男が好きぐらいで悩んでいて、それをオープンにできる神原さんが羨ましく見えます。神原さんだけじゃなくて秘密を抱えて生きている人もいるから安心してください。おやすみ。

ボクから見れば彼は何の心配もないように生きているように見えていた。でも彼にも誰にも言えない秘密があって、それを打ち明けてもらえた気がした。ボクは自分からカミングアウトしたつもりが、彼から逆にカミングアウトされてしまったように感じた。

おやすみ。

そう入力した後、ふと頭の中にあることがよぎって続きを入力した。

そういえば、洗濯機の上にパンツ忘れてますよ。

メールを送って数秒後、隣の部屋のドアが開いて風呂場に向かう足音が聞こえた。ボクは部屋の中で足音を聴きながら、布団の上で笑い転げた。しばらくして今度は部屋に戻ってくる足音が聞こえてきた。ボクは部屋のドアを開けると、暗い部屋の中をパンツを片手に歩いている彼がいた。

「そのパンツ使わせてもらったから!」

と、ボクは意地悪そうな顔つき作って言った。

「はぁ? アホか……」

ボクの言葉を聴いて、戸惑って呆れる。いつもの彼がいた。

「冗談ですよ。おやすみ」

「うん。おやすみ」

そう言って、ボクらはそれぞれの部屋に戻った。

<つづき>