深夜のカミングアウト<20>

性的対象として見られてなくて「好きだ」と言われてもないのに拒絶して、距離を取って接する人がいる一方。性的対象として見られて「好きだ」と言われても、普通に接してくれる人がいる。

ボクが好きになった彼らは後者だ。

そんな彼らは「いい男」だと言っても過言ではないと思っている。

あの夜から数ヶ月後。ボクは突然に会社を辞めることになった。

そのきっかけをくれたのも村上君だった。彼の何気ない一言がきっかけで転職することになった。別に会社の人間関係や仕事内容に不満があった訳ではない。ただ彼の一言で、自分の性格に合っていて、もっとやりたい仕事が見つかったからだ。それはゲイとは関係がないから、いつか機会があれば書くことにする。

そしてボクが会社を辞めて、ちょうど1年後に村上君も会社を辞めた。

ボクらは今、それぞれが別々の世界で生きている。

ボクは独りが好きだ 。彼も独りが好きだ。

ボクらはベタベタ馴れ合いで付き合ったりなんかしない。

ボクは独りでいることを淋しいとかマイナスなイメージだけで結びつけたくない 。独りでいるからこそ、見えることや気がつけたことが沢山ある。でも 、ボクは独りでいる時間だけではなく、誰かと一緒に過ごす時間も大切だと感じられるようになった。それは、彼のような人たちと出会えたからだと思っている。独りでいられる時間を大切だと思う。誰かと一緒にいる時間も大切だと思う。どっちの時間も大切だ。

そういえば、このサイトで出て来る、ボクが好きになった男性の多くが、みんな独りでいることが好きだった。それに中学時代に好きになったN君にしても、高校時代に好きになった松田君にしても、社会人時代に村上君にしても。独りでいることが好きだったせいか、みんな未だに独身だったりする。

ボクはこの現象を「ゲイの呪い」と密かに呼んで妄想して楽しんでいる。

でもよくよく考えてみたら、彼らが早く結婚してくれないと困る。ボク自身の気持ちの整理が、いつになってもつかないからだ。「もしかしたらまだ望みがあるのかも?」なんて、馬鹿みたいな妄想してしまう。「ゲイの呪い」とは、自分に自分に呪いをかけているものなのかもしれない。

村上君と1年1回ほど必ずメールのやり取りをする日がある。

それは彼の誕生日。

誕生日おめでとう。そろそろ結婚しませんか?
ありがとう。まだ誕生日を覚えてくれてるんですね。

ボクが会社を辞めてからも毎年、誕生日にメールのやり取りをしている。悲しいことに、あくまで結婚の件に関してはスルーだけど、それでも別に構わない。彼がボクからのメールを受け取って、どんな気持ちを抱いているのか訊いたことはない。「深く考えないようにしている」と言われたけど、もしかしたら少しは喜んでいてくれたのかもしれない。そうだとしたら単純に嬉しい。

今年もそろそろ彼の誕生日が近づてきた。

ボクの送るメールの内容は決まっている。彼から返信メールも内容も決まっている。

もう10年近く続けて来た同じメールのやり取りだけど、ボクは彼に宛ててメールを打ちながら、あの夜のことを思い出す。きっと彼も、あの夜のことを思い出してくれている。お互いの秘密を打ち明けた、あの深夜の出来事を。

<終わり>