絶対に会えてよかった<6>

「えっ?」

というくぐもった声がマスクの頭巾の下から聞こえた。「なんで?って言われても」と戸惑う仕草と声を聞いて思ったよりも、かなり若い人だと気がついた。

「パペットマペットって芸能人を知ってます?」
「はい。知ってますけど……」
「そっくりで怖いです」
「えぇ……本当ですか?」

彼は慌てて頭巾に手をかけて外した。黒い頭巾の下から現れた顔は、20代前半のとても若い人だった。

「なんだ。可愛いじゃないですか!」

ボクの言葉を聞いて彼は照れていた。黒頭巾の下には、いわゆるジャニ系と言われる端正な顔立ちが隠されていた。

「なんで頭巾なんかかぶってるんですか?」
「こういった店に来たのが初めてだったから、顔を見らてるのが恥ずかしくてつけてました」
「みんな怖がってましたよ。プロレスでつけるようなマスクとかじゃなくて、パペットマペットがつける頭巾をかぶったりしてるから。それに目の穴は開けてるのに口の穴も空いてないですよ」
「えぇ!そんな風に見られてたんですか。怖がらせるつもりなんてないんですけど」
「そうですよ。せっかくイケメンなのに」
「はぁ……ありがとうございます」

と、はにかみがら答える彼は、顔さえ隠さなければ普通にモテそうだった。

「そうだったんですね。でもこういった店の仕組みが分からなくて、どう誘えばいいのかも分からなくて、好みの相手を追いかければいいのかと思ってました」

あれだけボクを含めて皆が逃げ惑って避けているのに、気がついていなかったのかと驚いた。でも初めて来たのであれば無理もないのかもしれない。

ボクは一緒に布団の上に座るように促して、あぐらをかいた。彼は向かいで体育座りをした。

「こういった店の誘い方はですね……」

ボクはそれから1時間近く彼と向き合って会話を続けた。

ボクの持っているハッテン場の知識を思いつく限り彼に教えこんだ。彼は何も知らなかったようで、興味津々で聞いてくれた。ボク自身もインターネットや店で誰から教えてもらったことばかりだけど、その全てを彼に伝えた。

「じゃあ。ボクは帰ります」

喋るだけ喋って、疲れたので、ボクは帰ることにした。彼はボクが誘ってくれることを期待していたようで残念そうにしていた。このサイトの読者は知ってると思うけど、ボクは物静かな感じで、でも意思は強くて、マイペースな感じの人が好きだ。世間からイケメンと言われる人には、全く興味がなかった。芸能人でも滅多に好みのタイプはいない。

「頑張ってね!」

そう言って、ボクは握手してから別れた。後ろを振り返ると、彼はまた黒頭巾をかぶっていた。

あちゃ〜伝わってるかな?大丈夫かな?

そう思いつつも、ボクは店を後にした。

数週間後、ボクは同じ店に来ていた。

そして廊下を歩いていると若い男性から軽く手を触れられた。ボクは相手の端正な顔を見てすぐに誰だか気がついた。彼はボクの手を引いて近くの個室に案内した。そして向き合って抱きついてきた。

ボクは彼の耳元で、

「パペマペさんでしょ?」

と囁いた。

相手の男性はビクッとした後、ボクの顔を見て「あっ!」という声をあげた。ボクが誰なのか思い出したようだ。

<つづく>