絶対に会えてよかった<9>

「あんなの妖怪じゃん!」

と叫ぶ、ユウちゃん。

彼の声が大きかったので。ボクは慌てて「静かにして!」と指を立てた。部屋の隅に座る「妖怪」呼ばわりされた彼を見ると、自分のことを言われている自覚がないのか、ピクリとも動きがなかった。

ゲイ仲間から「妖怪」と呼び捨てられたけど、ここでは彼のことを「妖怪くん」と書くことにする。

「あんなのがいいって……君。頭おかしいんじゃない?」
「ははははっ……そうかもしれません。でもボクには彼が一番タイプです」

ユウちゃんのボクを見る目が、妖怪くんを見る目と同じようになっていた。周囲にいた人たちも、会話の内容から「ボクが妖怪くんに気がある」という状況を察したようで、妖怪くんを見る目と同じようになっていた。

またこのシーンか……

ボクは何度も同じ状況に出くわしていた。有料ハッテン場で「誰を狙っているの?」と質問され、正直に答えると「君は不細工が好きなんだね」と言われたこともあった。人の好みのタイプなんて、それぞれだから理解してもらえるとは思ってもいないけど、でも少しだけ寂しかった。

ボクの言葉を聞いて「コイツは付いていけないわ」と呆れたように去っていく人たち。

結局、ボクと妖怪くんと乱交3人組だけが大部屋に残された。

ちょっとぐらい近づいても大丈夫かな……

ボクは勇気を出して妖怪君の側に近寄って、彼と同じように体育座りをして並んで座った。

妖怪君は一瞬だけ顔を上げてボクの顔を見たけど、すぐに顔を隠すように伏せて、さっきまでと同じように動かなくなった。

既に店内では、

向井理(似)>>超えられない壁>>その他の客>>超えられない壁>>妖怪くん with 神原

という支配階層で出来て上がっていた。

ボクが妖怪くんの側に座っているのを見て、

「こんな変な奴狙ってるの?」

と、露骨に顔を出して通り過ぎて行った。

ボクは向井理(似)が誰を狙っているのかは分からなかった。彼は好みのタイプが見つからないのか、ひたすら店内を歩き回っていた。店内の多くの人が彼を狙って、後をついて歩いていた。まるで大名行列を見ているような気分になった。

ボクは妖怪くんの側に座って、その光景を眺めていた。

そし時折、現れては消えていく向井理(似)と、妖怪くんを見比べていた。

妖怪か……酷い言われようだな。でも、やっぱり彼のことが一番好きだ。

彼は何度か顔を上げて隣に座ってるボクの方を見た。でもすぐに顔を隠すように下を向いてしまう。

彼が何を考えているのかは俯いて座っているのかは全くわからない。でも、こうやって彼の側に座っているのが一番落ち着いたのは確かだった。

ボクは隣に座っている彼の体を触って良いのか迷っていた。

<つづく>