絶対に会えてよかった<17>

「そんな過去があって、背が高い人を見てもカッコイイとか思わないですよね」

ボクの話を聞くと「大変な目にあってきたんですね」と言って、妖怪くんはボクを抱きしめてくれた。さっきまで彼は震えていたけど、ほんの少しだけ震えは収まっていた。

うーん。大変な目にあったのかな?

ボクは暴力自体を、そんなに否定していなくて多少の暴力は教育上で必要だと肯定している。ただ小学生の頭を掴んで、机の角やロッカーに頭を叩きつけて流血するというのは、やり過ぎだと思うぐらいだ。その教師の存在自体、今となっては過去のことになっている。別に憎んでもなかった。中学時代や高校時代に「ホモ」と言われて、酷い目に合ってきたけど、それを乗り切れたのも小学時代に酷い毎日を過ごしてきたからだと思っている。

その教師の影響で背が高くて体格がいい人のことが苦手になったのか分からない。

背が高い。短髪。顎髭。体を鍛えている。これらの要素が3つぐらい重なると、その教師の姿と自然に重ねてしまう。

これはもはや潜在意識のレベルになってくると思う。

過去にも書いたけど、ボクは知的な感じの男性が好きだ。夜間飛行の井之上達矢さんと言う方が好みのタイプだ。もしくはNHKの武藤友樹アナウンサーが好みのタイプだ。最近では、NHKの日曜美術館に出ている小野正嗣さんが気になっている。たまたまメガネを書けているけど、別にメガネをかてける人が好きな訳ではない。この御三方の話し方など、彼らが持っている雰囲気が好きだ。画像検索して顔を見て貰えればわかるけど、ボクの好みのタイプはゲイ動画でお目にかかれない。しょうがないから少しでも素朴そうな人を見つけてオカズにしている。

「ボクにはそんな過去はありませんけど。ただ背の高い人が嫌いです」

と言って、妖怪くんは優しくたどたどしく抱きしめてくれた。ボクのことを慰めてくれようと気を使ってくれてるんだと思うと嬉しかった。

「そういえば……そちらは何歳なんですか?」

と、ボクはずっと気になっていたことを訊いた。当然のように「23歳です」ぐらいの回答が帰ってくるものだと思っていた。

「39歳です」
「…………えっ!39歳ですか?」
「そうです」
「まだ20代だと思ってました!」

かなり若く見えるし、恐らく向井理(似)も当然のように「年下だよね?」と思っていたはずだ。ぱっと見には20代にしか見えなかったけど、確かに各パーツ分けて、よーく観察すると30代と言われても、おかしくないように思えてきた。なんで若くみえるのかというと、部屋の隅にしゃんがんだりして挙動不審だったり、猫背だったり、そういった要素をトータルすると雰囲気が幼く見えるのだと気がついた。ちなみに妖怪くんと出会った時、ボクはまだ30代の前半だった。

「さっき経験ないって言ってましたけど、本当に経験ないんですか?」
「はい」
「他の男性と経験ないんですか?」
「はい」
「女性とも経験ないんですか?」
「はい」
「こうやって抱きし合ったりしたこともないんですか?」
「はい」
「じゃあ。パソコンで動画とか見て、ずっと性欲を処理してきたんですか?」
「はい」

ボクの失礼な質問の連続に妖怪くんは正直に答えてくれた。ただ恥ずかしくなったのか両手で顔を隠してしまった。

「すみません。嫌なら出ていきます」

と答えて立ち上がろうとするので腕を掴んで止めた。

「いいえ……むしろ好きになってしまいました」
「ボクみたいなのでいいんですか?」
「はい」

今度はボクの方が恥ずかしくなってきた。

ボクらは抱きしめ合いながら会話を続けた。抜き合いもしない。フェラもしない。バックもしない。それでも楽しかった。

<つづく>