絶対に会えてよかった<25>

好きでもない同性から言い寄られるの取って怖いな。

ボクはそんなことを考えていた。

もともと人によっては恋愛感情を抱いてもいない「異性から」言い寄られるのも怖いのかもしれないけど、さらに「同性から」という要素が加味されると怖さは格段に上がった。

自分でも意外なほど怖いと感じていて、布団に入ってからも、いきなりS君が同じ布団の中に入ってくるのではないかと恐れていた。

ホモのボクが同性から言い寄られて「怖い」と感じたのだから、ノンケの人が同性から言い寄られたら「もっと怖い」だろうなと思った。

ただ、これはもう少し後のことなんだけど、ボクは「好きでもない同性から言い寄られるのを怖い」と感じたくせに、まさに合宿中に隣の布団で寝ている松田君のことが好きになってしまって、毎日のように「好きだ」と本人の前で告白していたのだから不思議だ。

翌日になって、同級生たちも嫌がらせするのに飽きたのかと思っていた。

でも、そう簡単に問屋は卸してくれなかった。

S君は休み時間になると、いきなり背後から抱きついてきたり、キスをしようとしてきた。ボクはその攻撃をジタバタしながら抵抗して、そんなボクらの姿を同級生たちは遠巻きに見て笑っていた。一度でも抱きつかれると体格のいいS君を振りほどくのは困難であることが分かったので、なるべく彼とは距離を取ることにした。

ボクらの姿は漫才のようなものだった。

「この人も好きでもない同性を相手によく抱きついたりできるな」と感心していた。

そんな中、特に3名の同級生がS君をけしかけて、ボクを襲うように仕向けているのに気がついた。S君の背後には、いつも3名の誰かがいた。きっとS君は彼らの前で道化を演じているようなものだと思った。ボクも同級生の前で同じように道化を演じていたらから、何となくS君に気持ちは分かった。

合宿が終わって通常の授業に戻ってからもS君からの嫌がらせは続いていた。

ここでいきなり話が逸れてしまうんだけど高校一年生の時代に、

「神原くんって本当にホモなの?」

という質問以外に、ある共通した質問を多く浴びせられたことを思い出したので書くことにする。

その質問は、

「神原くんって、やっぱりエヴァの『碇シンジ』が好きなの?」

というものだった。

この質問を最初に浴びせられた時、どう反応したものか困った。

もう少し積極的な同級生からの質問だと、

「神原くんって、やっぱりエヴァの『碇シンジ』でヌイてるの?」

という強者もいた。

エヴァンゲリオンは中学3年くらいにブームになっていて、そのブームは高校生になって収束するどころか、ますますエスカレートしていった。ボクもどんな内容なのか気になったので、深夜に再放送されたタイミングで録画して内容のチェックをしていた。それにしても、なぜ皆が『碇シンジ』というキャラクターを限定して質問してくるのかも謎だった。

「神原くんって、やっぱりアニメでも男性のキャラクターが好きなの?」

くらいに質問してくれれば「そうだよ」って簡単に答えてあげられる。そりゃあ同性が好きな対象なんだから「好きなアニメキャラは男性が対象なの?」と問われれば「そうです」と答えるに決まっている。「好きなアニメキャラは女性です」と答えれば、またまた妙な噂が立ってしまう。

それにしても異口同音に『碇シンジ』というキャラクターの名前が出てくるのが怖かった。

うーーーん。どう答えたものか?

ボクは妙な質問を浴びせられて真剣に考えた。

ここで回答を間違えたら、またまたまた噂を立てられてしまう。

だからボクは慎重に言葉を選びながら回答した。

<つづく>