絶対に会えてよかった<26>

「碇シンジって嫌いじゃないけど、別に好きでもないよ」

と、言葉を選びながら慎重に答えた。

ボクは気になった作品があると同じ作品を消化しつくすまで繰り返して鑑賞する。

そういった意味では、庵野秀明監督の作品では『エヴァンゲリオン』よりも『ふしぎの海のナディア』の方が繰り返し鑑賞していた。まだDVDが存在しなくてビデオの時代だったので、録画しては何度もテープを巻き戻して鑑賞していた。

何十回も同じ作品を見ていると、自分の中で「もう見なくてもいい」と思うタイミングが訪れる。これは「飽きた」というよりも、自分の中で「腑に落ちた」という感覚に近い。

逆に、一度見て気にならなかった作品は、もう二度と見ない。

これはアニメだけに関わらず、漫画本や映画やドラマや音楽や絵画でも同じことが言える。

そういった意味では、ボクは多くの作品に接してはいないのかもしれない。人間関係に求めているのと同じで広く浅い関係よりも、狭く深い関係を求めているのかもしれない。

これは傍から見れば「オタク」にしか見えるのかもしれない。

でもボクは自分自身のことをオタクとは思っていないけど、それでもオタクという面は他の人よりも強いんだろうなとは思っている。

ボクがどれくらいのオタクなのか端的に説明すると、

『ファイブスター物語』

を、小学時代から読んでいると言えば分かってもらえるかもしれない。

『ファイブスター物語』はオタクの頂点に位置するような漫画だ。

その漫画本を小学時代から読んでいる。今もボクの家の本棚には、小学時代に買った『ファイブスター物語』の漫画本が並んでいる。もう30年近く経つので、かなり傷んでしまっている。もちろん設定資料集も全部揃えている。『ファイブスター物語』は設定資料集を読んでいないと本編の内容を理解するのが困難な変わった漫画本だ。発刊されている「本編の漫画本」と「設定資料集」の冊数が、そんなに差がないという、どっちが本編なのか分からない状況になっている。ただ度々、設定が変更になるので、古くなった設定資料集は売っている。

ボクは『ファイブスター物語』のストーリー自体も好きなんだけど、作者の永野護が描くデザインが大好きだった。ボクの家の本棚には日本も西洋も問わずに画集が並んでいるけど、彼のデザインした絵を眺めていると、まるで画集を眺めているような気分になってくる。

このサイトに書いている文章にも『ファイブスター物語』は少なからず影響を与えているように思う。

『ファイブスター物語』は巻末に年表が付いている。ストーリー自体が過去や現在(時間軸が定まってないから現在をいつにするか難しいけど)や未来など、話が度々ぶっ飛んでしまう。別次元の過去の話を書き始めたかと思えば、その次元のはるか未来の話を書き始めたりと、もう時間軸が無茶苦茶だ。作者としては「年表をつけているし、物語の結末も決まっているからいいでしょう?」という気分で漫画を描いているのかもしれない。

多分、このサイトの文章も真面目な人が文章を書いたら、小学時代から社会人時代まで年代別に順番に書いていくと思う。ところが子供の頃から『ファイブスター物語』を読んでいるボクは時間軸なんて全く気にしない状態になっている。「同じ人が書いているし、いつの時代に飛んで書いてもいいでしょう?」いう気分で文章を書いている。

子供の頃から他の漫画本に関しても、そこそこは読んでいたけど『ファイブスター物語』ほど真剣になって読むことはなかった。ここ数年間で、割と真剣に読んだ漫画本は、八木教広『クレイモア』とか押見修造『惡の華』とかくらいだ。あと押見修造は他の作品も読んでいる。特に好きという訳ではないけど、なぜか彼の作品は気になっている。

それと漫画本の中でも、歴史を扱ったの作品が好きだ。みなもと太郎『風雲児たち』を始め目についたものは片っ端から読んでいる。歴史関連の漫画本を上げるとキリがないので、ここでは書かない。

後は、最近になって鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』とか志村貴子『放浪息子』と言った、このサイトに関連したLGBTを取り扱った作品を読んだ。他の作品も読んだけど、この二つの作品は割と面白かったので繰り返し読んだ。

社会人になってから昔のように、何十回も同じ作品を鑑賞するのは難しくなったけど、それでも気になった作品は何回かは繰り返して「ボクの中で腑に落ちる」まで鑑賞する。

なんだか、いきなり凄くオタク染みた文章を書き始めたけど、もう少しオタク話を交えながら本編を書き進めていく。

「碇シンジって嫌いじゃないけど、別に好きでもないよ」

この言葉で止めておけばよかったんだ。

先程から書いているように、ボクの趣味は同級性の中でも極端なレベルに達していた。

大体、小学時代から『ファイブスター物語』とか『中島みゆき』が好きな奴なんて、そうそうはいない。共感してくれる同級生なんていない滅多にいないはずだった。

この時、同級生を前にしてボクの中のオタク魂に火がついた。

<つづく>