絶対に会えてよかった<31>

そしてストッキングを買うべきか迷いながら雑誌コーナーの前に立った。

それから自分の背後に並んでいる「ストッキング」の存在を意識しながら雑誌の表紙を見るともなく眺めていた。隣で立ち読みしている男性の存在が邪魔だと思いながら、その人がいなくなるのを待っていた。

これが大学近くのコンビニだったら絶対に買うのは無理だった。

大学近くのコンビニは同じゼミのメンバーがバイトをしていて、ストッキングを買う姿なんて目撃されたら言い訳のしようもなかった。でもボクが今いるコンビニは大学から遠く離れていた。店に入って先に店員の顔を確認したけど知り合いはいなかった。

ボクには全く興味のないモノだったけど、旅の恥は掻き捨てのようなもので、このコンビニなら買ってあげてもいいかなと思えた。

これから会う人が少しでも喜んでくれるのなら買ってあげようかな。

そんな気持ちが徐々に沸き起こってきた。顔も知らない人だったけど、その人が喜ぶ顔が見たいと思った。

ボクは雑誌コーナーに人がいなくなったタイミングを見計らって、背後の棚に陳列しているストッキングコーナーを振り返った。

同じ棚には男性向けののパンツや靴下やシャツが一緒に置かれていた。顔の向きを男性向けのパンツに向けたまま、視線はストッキングの方を向けて、どんな商品が並んでいるのか確認した。商品にはストッキングを履いた女性の足元の写真がプリントされていた。ゲイのボクにとっては残念ながら女性の足の写真を見ても、全く興奮する要素はなかった。

えーと。「M〜L」と「L〜LL」のどっちのサイズを買えばいいんだろう?

ストッキングにサイズなんてあることを全く知らなかった。子供の頃に、母親が履いている姿を見かけたことは会ったけど、それくらいの物でしかなくて、ストッキングに対する知識が全くなかった。それに買ったストッキングを誰が履くのかが分からないのでサイズの選びようがなかった。

どのサイズを買えばいいんですか?

と、ボクは携帯を手に取って質問のメールを送った。

できるだけ大きいサイズがいいです。こっちは後10分くらいで到着します。

と、返信メールが来た。

大きいサイズか…じゃあ「L〜LL」のサイズでいいよね。

周囲に目を光らせながらストッキングを手に取った。恐らく監視カメラに映っているボクの姿は「万引き犯」そのものだろう。手に取ったストッキングの裏面を見ると、「ストッキングの履き方」がわざわざ解説されていた。どちらにせよボク自身は履くつもりなんてなかったから、どうでもよかった。

よし。どのストッキングを買うかは決めたぞ。でもこのままレジに持って行くのは恥ずかしいな…

ストッキングを手に持って隠したまま、少し迷ってから店内の奥にある冷蔵庫の扉を開けて、水のペットボトルを取り出した。

うーん。このペットボトルとストッキングの商品を一緒に店員に出せば、少しは誤魔化せるかな?

今になって振り返ってみると「絶対に誤魔化せる訳がないよ」としか思えないけど、ボクにはストッキングを単体でレジに出す勇気はなかった。それからボクは商品を持ってレジに行った。そして他の客がいないことを確認してから店員に差し出した。

<つづく>