絶対に会えてよかった<34>

彼の住処は、一般的な大学生が暮らしている1LDKの賃貸アパートだった。

「そこら辺に適当に座ってゆっくりしてて」と言われたので、ボクはテレビの前に置いているテーブルの近くに座った。

「ごめんね。まだ晩御飯を食べてなくて、何か食べるなら作ってあげるよ?」

と聞いて時計を見ると、既に22時を過ぎていた。こんな時間まで晩御飯を食べる余裕がないなんて、「大学院生って忙しいんだ」と驚いた。

「いえ。食べて来たからいいです。大学院って忙しいんですね」

と答えながら、それとなく部屋の様子を観察していた。テーブルの上には法律関係の分厚い本が沢山置いていた。

ボクは誰かの家に行くと、それとなく部屋を観察する癖がある。

ちょっと間取りマニアな面があって、部屋のレイアウトや物の置く位置を考えるのが大好きだ。

よくテレビでどこかの家に上がり込んで会話する番組がある。テレビを見ながら、その家に間取りや家具の配置。どんな物を置いているのか、どんな置き方をしているのか?など、注意深く観察している。職場の棚や机のレイアウトを考えるのも好きで、部署の配置換えなどがあると、依頼されてもないのに自分で図面を作りながら夢中になってしまう癖がある。空間を作るのが好きで、建築家が書いた本もよく読んでいる。その建築家がどんな意図があって、その空間を作ったのかなど背景を読むのが好きだ。

部屋を眺めていると、その人の性格や人生観などがよく分かる。

それまで会った人の中には、部屋がぐちゃぐちゃな人も沢山いた。

テーブルの上は空き缶だらけ。台所は洗い置きの皿がのこったまま。フライパンには数日前に作った料理が放置したまま。クローゼットは収まりきらない衣類やあふれている。ほとんど使用していないのか、電子レンジや炊飯器やポットの上には埃が溜まっている。カーペットには髪の毛や埃が絡まっている。

そしてベッドを見ると、朝に起きたままなのか布団はぐちゃぐちゃで、ベッドの周りには取り込んだままの洗濯物が皺だらけで散乱していたりする。

今から、あの汚いベッドに一緒に寝るんだ。

そう考えると、どんなに相手が好みのタイプでも冷めてしまって断ってしまう。

「何が理由なの?」

と断った理由を質問されたけど、まさか「部屋が汚いからです」とストレートに言うのも躊躇いがあって、「すみません。とにかくボクの気分が乗らないだけです」と言って、頭を下げ続けて部屋を後にしたこともあった。

ヨウスケさんの部屋は許容範囲だな。

過去に訪れたことのある汚部屋と比べみても、ヨウスケさんの部屋は物は多いものの、きちんと整理されていた。彼の几帳面な性格が部屋に反映されているのが分かった。

彼は冷蔵庫の中から作り置きのお惣菜を出して、鞄の中から、ほっかほっか亭の弁当を出しテーブルの上に置いた。鮭弁当だった。

テレビでは貿易センターに飛行機が激突する9.11の瞬間が繰り返し流れていた。ちょうどあの事件から1年が経過したらしく、アメリカがアフガニスタンに攻め込んでいる様子も繰り返し流れていた。その番組を見ながら、ヨウスケさんと一緒にテレビを見ながら国際情勢について会話した。弁当を食べ終わると、容器をゴミ箱に捨てて歯磨きをして戻って来て、ボクの真横に座った。

ボクは好みのタイプの男性が、すぐ隣にいるというだけで興奮してしまった。

<つづく>