京都市内の北部に向かう原付は交差点を右折して、ちょうど一週間前の夜に立ち寄ったファミレスの前を通り過ぎた。ファミレスの店内は、やっぱり近くの大学生達であふれていた。きっと毎晩のように大学生で溢れているんだろうと思った。大学時代、原付に乗って裏通りを含めて京都市内の大半の通りを走った。便利なことに京都市内は碁盤の目のようだ言われていて、初めて行く場所でも通りの名前さえ分かれば、迷うことなく目的地までたどり着けた。
彼のアパートの位置は一度行ったのではっきりと覚えていた。
アパートの駐輪場に原付を止めてから、階段を登って彼の部屋のベルを押した。数秒待つと鍵が開く音がした。それからドアが開いて、
「また来たね。入っていいよー」
と言ってボクを招き入れてくれた。彼はメガネをかけて白のパーカーを着ていて部屋でくつろいでいたようで部屋着のラフな格好をしていた。
ボクは部屋に入ってから鞄をテーブルの近くに下ろした。すると彼はボクに近寄ってきて抱きしめてくれた。ボクも早く抱きしめてくれるのを期待して待っていたから素直に受け入れた。
「そんなに俺のことがタイプなのー?」
「はい……もの凄くタイプです……」
と照れながら認めてしまった。
「君可愛いなー」
と言って強く抱きしめれて頭を撫でられたのが嬉しかった。
こうやって文章を書いていて痛々しくなってくる。この時期は本当に若かったなと思うけど、今となっては若気の至りだ。いい年齢になった今なら「うーん。まあ。ボクは真面目そうな人が好みのタイプで、あーたら。こーたら」とあれこれ答えってしまって素直さは失ってしまっている。
もうボクの弱点の大半はバレてしまっていたからお互いに何も言う必要はなかった。この日の夜、彼がどんなことをしてきたのかは生々しいから詳しく書くことができないけど、
「こうされるのが好きでなんじゃないのかなー」
と言って、彼はちょっとゲイ動画がでも見たこともないような「体位」で責めてきたんだけど、それがボクの弱い所をモロに突いてしまった。ボクは興奮して前回よりも弱点をさらけ出してしまった。もしかしたら、彼はこの体位で責めることで、ボクがどれくらい興奮するのか試してみたかったんじゃないだろうか?と、後で疑問に思ったほどだ。
この後、多くの人と有料ハッテン場で関係を持ったけど、この体位で責めてきた人はいなかった。彼ほどボクの弱点を的確に見抜いて肉体的な欲望を満たしてくれた人はいなかった。
彼は前回と違って途中で「女装してもらえる?」とは言ってくることもなく一方的に責めて続けてきた。ボクはイッてしまった後、「そっちはイカなくていいんですか?」と質問すると「別にいいよー」と言って体を拭いてくれた。相変わらず彼自身の体は、ほとんど触らせてくれなかった。
それから彼は「明日は大学院が早いからもう寝たい」と言って、ボクに帰るように促して来た。そして原付を置いているところまで見送りに来てくれた。そして前回と同じように別れ際に、
「君がセーラー服を買って女装してくれるなら会ってあげるよー」
と意地悪な言葉を投げかけてきた。
「えっ……ボクが自分でセーラー服を買って着るんですか?」
ボクは驚いて質問をした。
それまでは彼が持っているセーラー服を着てくれるならという話だったのに、いつのまにか話の内容がエスカレートしていた。
「うん。君がセーラー服を自分で買って、それを着てくれたら会ってあげるよ」
「どこで買えるんですか?」
「どっかのネットショッピングで買えるんじゃない?」
そう言って彼は屈託無い笑顔で見送ってくれた。
それから家に帰って携帯の画面を見ると、ヨウスケさんからメールが着ていた。
君は真面目で可愛いからセーラー服を買って着てくれるのなら本気で付き合ってあげるよ。
と書かれていた。
<つづく>