ボクはしばらくの間、未練がましくもヨウスケさんのことが忘れられなくて、京都にいる間、ハッテン場に行く度に、いつかどこかで再会することがないかと気になっていたけど、彼の姿はどこにも見当たらなかった。彼の通っていた大学に用事があって足を踏み入れる度に、再会できないかと期待したけど、それもなかった。
大学を卒業して京都から旅立っていくときに、一番先に頭に思い浮かんだのが、何を隠そう彼のことだった。
彼と会った後、大学時代や社会人時代になってから、しばらくの間は他の人と寝ていても、残像のように彼のことを思い出すことが何度もあった。
きっとヨウスケさんだったら、ああやって責めてくれるのにな……
と、頭をよぎることがあった。
肉体関係を持っている目の前の相手に対して、じれったくて、もどかしい思いを抱くこともあった。たった二回しか関係を持ってなかったのに、それだけ彼はボクの肉体的な欲望を満たしていてくれたんだと思う。
彼ならボクの肉体的な欲求を満たすことができる。
でも、どう頑張って付き合ってみたところで関係が長く続くとは思えなかった。彼は清潔感が、頭もよくて……とボクの好みのタイプにそのものだったけど、でもどうしてもモヤモヤとした違和感はぬぐえなかった。
それが彼に断りのメールを送った理由だった。
例えば最初の一回目は我慢して女装してみたとする。でもボクの中でモヤモヤは残ると思う。そのモヤモヤした思いが少しづつ積もり積もっていけば、徐々に耐えられなくなるだろうということに漠然と気が付いていた。
彼と出会ってから、ボクの中には肉体的な欲求を満たすよりも、もっと優先度の高いものあること気づかさてくれた。
それは、この人と一緒にいて、平凡に生きていくことができるのかということだった。
彼と会って以降も、何人か好みのタイプの男性と出会ったけど、まず最初の考えることが、そのことだった。
これは何度か書いているけど、結局、ボクの価値観の中で一番優先される事項が、まずは人として平凡に生きていくことだった。
ボクは他の人より不器用な面が多かったから、平凡に普通に生きていこうこと自体が難しいと思っていて、だから自分の人生の目標にまず最初に掲げていた。他の同級生のように歌手や芸能人になりたいとか言って、楽器を演奏したりするなんて余裕はなかった。
よくよく思い返してみると、ボクが中学時代から好きになった人たちは、みんな地味だけど真面目な感じの人ばかりで、大人になって彼らの近状を知ると、就職氷河期世代にも関わらず、みんな就職して仕事をしていた。特になんということはないけど、平凡に生きている人たちばかりだ。なんとなく子供の頃から、無意識のうちに、そんな男性を選択していたんだと、30歳を過ぎたあたりに気が付いた。
ヨウスケさんはそんなボクの内面を気づかせてくれた大事な人だった。
<つづく>