その40代男性との出会いは、ある有料ハッテン場の廊下だった。
ボクが店の暗い廊下に立って考え事をしていると、目の前を歩いた男性が立ち止まって股間を触ってきた。
うっすらと見える彼のシルエットから
なんだかボクの好みのタイプじゃないな……
そう思って、首を振って誘いを断った。
しばらくすると彼は他に寝る相手を見つけたみたいで、見知らぬ男性と一緒に個室に消えていった。約1時間後、彼は個室から出てきてシャワーを浴びに行った。そしてヤリ部屋に再び戻ってきた。さらにしばらくすると、また他に寝る相手を見つけたみたいで、見知らぬ男性と個室に消えていった。
それを何度も繰り返していた。
あの人……意外とモテるんだな。
彼の行動を観察しながらボンヤリと思っていた。
彼はそんなにイケメンという顔立ちでもなく30代には見えなくて、とっくに40代になっていた。ボクよりも身長は低いくらいで160センチ届かないくらいだった。ボクが誘いを断った理由だけど、体の一部に入れ墨をいれていて、何よりも誘い方が手慣れていて怖かった。
しばらく経ってから同じ店を訪れると、彼と再び出くわした。
やっぱり前回と同じように廊下に経ってボォーとしているボクの前を歩くタイミングで股間を触ってきた。「またあの人なのか……」と気がついたボクは前回と同じように誘いを断った。彼は残念そうにした後、ボクの隣に立って「君。前も来たことあるでしょ?」と言ってきたので「はい。そうです」と素直に答えた。それがきっかけで彼と雑談するようになった。
その後も店に行く度に彼は必ずいてボクを誘って来た。でもずっと誘いを断り続けていた。
ボクには彼と寝たいという願望は皆無だった。
でもなぜか彼の存在が気になり始めていた。
さらに彼の行動を観察していると、新しく店に入ってきた客の大半が、彼と寝ていることに気がついた。
相手は20代、30代など年代に関わらず、彼に狙いを定められて食われてしまっていた。中にはかなりのイケメンもいた。
彼は「タチ」も「ウケ」もどっちも可能なようで、相手によってポジションを変身していた。後から聞いたけど、本当は「ウケ」だと言っていた。「タチ」もできない訳じゃないけど、かなりしんどいと言っていた。
彼は店に来る客の大半と関係を持っていたから、顔見知りも多かった。これは最後まで理由がわからなかったんだけど、なぜかボクのことを気に入ってくれたようで、他の顔見知りの客とは、ほとんど会話しなかったのに、ボクと顔を合わすと気軽に話しかけてくれるようになった。
「あの人は常連だよ」
「あの人はタチだよ」
「あの人はうまいよ」
「あの人とは飲み会で会ったけど、性格が最悪」
「あの人はキスばかりしていてウザい」
「あの人は気持ち悪いから二度と関係を持ちたくない」
と、店に入ってくる客について情報をくれるようになった。
ボクは彼の話を聞いているうちに、
彼のどこにモテる要素があるんだろう?
という疑問がふつふつと湧いてきた。
<つづく>