絶対に会えてよかった<48>

ある程度の好みのタイプだったら、誰でも彼でも見境なく手を出してしまう40代の彼。

そんな彼にも一度だけ手を出すのを躊躇したことがあった。

その相手は、この章の2つ目に出てきた「向井理(似)」だった。

あの日、向井理(似)が現れた時、40代の彼も一緒に店内にいた。40代の彼はユウちゃんとも仲が良くて、もともとボクがユウちゃんと話すきっかけを作ってくれたのも、この40代の彼を通してだった。彼は常連客だったので顔見知りの客が多くて、ボクに何人か紹介してくれた。みんなボクよりも年上だったから、彼らは「後輩」か「弟」のような扱いして可愛がってくれた。乱暴で危ない客が来た時など、こっそりと教えてくれるようになった。そんな優しい彼らだけど、ボクのこの好みのタイプだけは「絶対におかしい!」と言って最後まで理解してくれなかった。ボクはこの時期、ずっと「ある人」が店に来るのを待ち続けていた。

「いやーあの人イケメンすぎるわー」

それが彼が向井理(似)を見た時の反応だった。

なぜかいつもと違って女性ぽい口調になっていた。

「誰を狙ってるのかなー」

そう言ってボクの耳元に囁いてきた。

「いつもみたいに手を出してみたらどうですか?」

あれだけ見境なく手を出しておきながら、今更になって彼が初恋した女性のようにキャーキャーと恥ずかしがっているのが不思議だった。

「いや。あんなイケメンに断られたらショックー。まじで凹むわー」

しゃべり方がマックでだべっている女子高生のようになっていて語尾が上がっていた。それから廊下に立って、遠巻きに向井理(似)を見ながらキャーキャーと他のお客と一緒に盛り上がっていた。彼が目の前を横切った時なんか、数人の視線が彼の動きに沿って動いて、姿が消えた瞬間に「カッコいいー」と言い合って騒いでいた。

「あの人誰を狙ってるのかなー」
「やっぱり短髪でガチムチタイプなんじゃない?」
「あの人初めて見たー」
「絶対に初めて来た客だよねー」
「誰か出してみなよー」
「無理無理。断れたらショックすぎるわー」

ボクは向井理(似)がイケメンだとは思うけど好みの範疇じゃなかったので、彼らの側で冷めた気持ちで話を聞いていた。

しばらく後になって、ボクは向井理(似)と話すきっかけを持つことになったのは書いたけど、向井理(似)は「背が低い人が好き」と言っていた。それなのに40代の彼がスルーされたのは、彼が40代以上という年齢がオーバーしているのが原因なのかは不明だった。この時、店内ではボクと妖怪君。そして40代の彼だけが背が低い部類に属していた。

ちなみに 40代の彼は妖怪君を見て「気持ち悪い!」と一蹴した。まさか向井理(似)が狙っているのが部屋の隅でドナドナしたオーラを漂わせている、その妖怪君だったんだけど、そんなことは知るよしもなかった。

なかなかうまくいかないものだけれど、この人間関係というか、お互いの好みのタイプの「もつれ具合」が、有料ハッテン場の魅力のように思える。

少し話が逸れてしまった。

ボクはマッサージをしながら40代の彼に有料ハッテン場で「モテる秘訣」を教わろうとしていた。そして彼の答えが、ボクを有料ハッテン場から遠のいていく「きっかけ」になる のだけれど、この時は知るよしもなかった。

<つづく>