絶対に会えてよかった<51>

夜の22時過ぎ。ボクは京都駅近くのホテルの前に立っていた。

一階にエレベーターはどこにあったかな?

冬の京都市内は寒くてコートのポケットに手を入れて目の前にそびえ立つホテルを睨んでいた。そして頭の中でホテルの構造を思い出していた。

目の前の建物は京都駅近くに昔から建っている有名なホテルだった。そのホテルには宿泊はしたことがないけれど、大学の課外活動の用事があって何度か来たことがあった。かなり高級感があって、上流階級の宿泊客ばかりで、フロント近くの喫茶店では優雅に食事している品のいい客の姿が目に焼き付いていた。お客の高級感に押されて「なんて場違いなんだ!」と足が竦む思いだった。

ボクみたいな平凡な大学生が夜遅く、フロント周辺を挙動不審にうろうろしていたら、明らかに違和感があって目立ってしまう。できるだけ手早く目的の部屋までたどり着く必要があった。

さて……どうやって入ったものかな?

ポケットの中から携帯電話の開いてメールの確認をした。

○○○ホテル5階の514号室に泊まっています。

さっきから見慣れた文面をもう一度読み返した。

ボクが目指すのは5階だ。まずはエレベーターまでたどり着かないといけない。

京都という土地柄のせいかゲイ向けの出会い掲示板には「旅行者」の書き込みが多い。旅行に来てついでに、ゲイ仲間と寝て羽を伸ばしたい願望が湧くようだった。

ボク自身、本来なら旅行者から誘いのメールが来ても、あまり興味がなかった。どうせ旅行者と会っても、一晩だけの関係だから、ボクが欲しかったものとは違っていると思っていた。だからそれまでの誘いのメールには丁重に断るようにしていた。

でも514号室に泊まっている男性と実際に会ってみる気になったのは二つ理由があった。

一つは彼のメールの丁寧な文面だった。

もう一つはボクと「同郷」という共通点だった。

彼はボクの書き込んだ掲示板の文章を読んでメールを送ってきた。そのメールの文面には「○○県から旅行で来ています」と書かれていた。いきなり目に飛び込んできた同郷の文字にボクは歓喜してメールの返信をした。すると相手の男性からも喜んでメールの返信が来て、そのままの流れで「会ってみない?」という流れになった。

彼を待たせるわけにはいかないし、いつまでも迷っていてもしょうがない。

ボクは勇気を出してホテルの玄関に踏み出した。

またまた時間がぶっ飛んでしまって申し訳ないけど、今度は大学時代の話である。

この章も着々と書き進めてきて、そろそろ終盤に入ってきた。

若い頃の恥ずかしい話を短編集のように書いていて、なんだか懺悔の文章を書いているように思えてくるけど、もう少しだけ付き合って欲しい。

<つづく>