絶対に会えてよかった<55>

「飲む?」

彼は冷蔵庫からビール缶を取り出して勧めてきた。

まぁ……一杯くらいならいいかな?

お酒は弱いけど一杯くらならいいやと思った。ボクは一杯目で顔が赤くなってしまって、二杯目で頭がクラクラして、三杯目で吐くペースだ。彼の実家は農業をしているらしく身内が集まって焼肉をしながら飲む機会が多くて、ビールが大好きだと言っていた。

ボクはビール缶を渡されて、彼と一緒に夜景を眺めながら話をした。

あまりにマニアックな話を書いてもしょうがないけど、ボクの地元で人気があったローカル局のラジオ番組の話で盛り上がっていた。

そのラジオ番組に、お互いにハガキを出して読まれた経験があることが分かって、「ペンネームの◯◯◯とかいたよねー」といった懐かしい思い出話をしていた。ボクは小学時代から寝る時にラジオを聴いていて、いろいろなラジオ番組にハガキを出していた。ちなみにハガキを読まれて一番嬉しかったのは、中島みゆきのラジオ番組だった。

彼は既婚者で息子が二人いることを教えてくれた。京都市の左京区にあるイベントホールで学会があって、その学会の発表のために京都に来ていることを教えてくれた。地元ではゲイであることを隠して生きてるけど、京都に来たついでにノンケの仮面を外して、久しぶりにゲイの素顔のまま羽伸ばしをしようと掲示板を見て、ボクの書き込みを見つけたと言っていた。

ボクらの地元では有料ハッテン場なんてなかったし、出会い系掲示板の書き込みもほとんどない。

彼は仕事や家庭の立場上もあって、ノンケの仮面を外すことはできないと言っていた。ただ中学時代から恋愛対象は「女性」じゃなくて「男性」と言っていた。

ボクは中学時代や高校時代にカミングアウトしていた話をすると「俺らの実家みたいな田舎で同性愛者を名乗るなんて馬鹿じゃない?」と呆れてた。ボクも自分のことながら呆れて「同感です」とうなずいた。

「何か運動でもしてるんですか?」

ボクは彼の姿を最初に見てから何かの運動をしていることに感づていたので質問してみた。

「小学時代から陸上部だった」
「なるほど。それで痩せてるんですね」

ちなみに二人の会話を文章中では「標準語」で書いてるけど、地元の「方言」丸出しで会話している。

「ボクの高校時代に好きになった他校の先輩が陸上部でした」
「へぇー」
「その人も医療関係を目指してます」

ボクは過去に何度も医療関係者と縁があって、それは大学時代に課外活動でやっていたことにも関連している。ついさっき書いた高校時代に好きになった他校の先輩も医師になって、今は実家近くの総合病院で医師として働いている。他にもポツポツと要所要所で出会うゲイの人達に医療関係の人が多かった。

<つづく>