絶対に会えてよかった<57>

高校時代のある時期から、何か困ったことがある時に「彼ならどう考えるだろう?」とか「彼ならどうするだろうとか?」とか考えるようになっていた。ここまでくると、もう彼に対する感情は「憧れ」とか「尊敬」とか飛び越して「崇拝」の領域に達していた。ただボクもいい年齢になってきて、最近でこそ憧れから恋愛感情を抱く流れが少なくなってきたように思う。

話は戻って、目の前にいる彼は「性病になるのが怖い」と何度も言っていた。

既婚者で医療関係者の彼にとっては「性病」は天敵だった。

よくよく話を聞いてみると、

彼が病気に感染する⇒彼経由で奥さんに病気を感染させる⇒浮気がばれる⇒浮気の原因を調査される⇒彼がゲイだとバレる⇒ついでに病気になったら保険を使って治療するから職場にもバレるかもしれない⇒リスクが高い。

と、彼の思考の中で、ここまでの流れがセットになっていた。

そんな中で細心の注意を払いつつも肉体関係を持つ安全な相手を探していて、過激な書き込みばかりが散見する掲示板の中で、ボクの書き込みがヤケに目についたと言っていた。

これは大学時代に出会った多くの人から言われたんだけど、なぜかボクの掲示板の書き込み文章は目立つらしい。出会い系の掲示板経由で初めて出会ったイサムさんという女装している人からも同じことを言われた。他にも出会った人から顔を見た瞬間に、「あぁー君ならあの文章を書くよね」と何度も言われたことがあった。というか……過去に出会った人の全員から言われてたような気がする。

とにかく既婚者で安全な相手を探している彼にとっては、ボクが書いた文章を読んで安心できたようでメールを送ってきた。

少し話が逸れてしまうけど、以前からゲイ向けの出会い系掲示板に「既婚者募集」とか「既婚者の方はいませんか?」と言った書き込みを見かけたことがあった。この手の掲示板を見たことがある人なら、一度くらいは見かけたことがあるんじゃないだろうか。

ボクはなぜ「既婚者」を募集しているのか、よく分からなかった。ずっと世の中には「既婚者フェチ」のような層がいて、その層の人たちが既婚者の相手を探してるんだと勝手に思い込んでいた。それにボクは既婚者じゃないし、そういった書き込みをしている人との接触する機会がなかったので、深く考えることもなくて謎のままだった。

これは最近になって、ある人から教えてもらったんだけど、そういった書き込みをしている人の大半が「既婚者」だと知った。

自分自身が「既婚者」で相手も同じ「既婚者」の方が、周囲にバラされるリスクや病気などを含めて安全性が高いために「既婚者募集」と言って書き込んでいるようだ。もちろん全ての書き込みがそうじゃないとは思うけど、教えてもらって成程と思った。

ボクにとっては目の前でビールを飲んでいる彼は憧れの人に雰囲気が似ていた。しかも同郷という安心感がプラスされていた。

そしてボクと彼は過激なことはしたくない。でもお互いに気持ちよくなりたいという利害が一致していて一緒に寝ることになった。

<つづく>