絶対に会えてよかった<62>

なんだか彼はボクのことを全く見てくれていない気がした。

これは女装することをお願いしてきたヨウスケさんにも言えたことだったんだけど、もし女装してところで、彼が好きなのは女装しているボクであって、きっと女装していないボクには興味がないんじゃないだろうか?と疑問に思っていた。セーラー服を脱いだら彼の興味は全く無くなってしまいそうだった。彼からセーラー服を買うように依頼された際、躊躇したのは着ること自体への違和感もあったけど、彼が興味があるの女装しているボクにしかないのでは?という疑問もあったからだ。

それと同じことが彼にも言えるような気がした。

彼にとっては病気を持ってない年下の相手で、陸上のユニフォームを自分で着るか、もしくは着てくれれば誰でもよくて、別に相手がボクじゃなければならないという理由はないように思えた。

別にそういったコスプレ願望を持つ人を否定するつもりはないけど、ボクという人間性が彼の中で存在してないように思えて虚しくなってきた。もし彼がユニフォームを脱いだり、ボクが仮にユニフォームを着ていて脱いだりしたら、彼のボクに対する興味は急速に薄れていくだろうと思った。

出会い系の掲示板や有料ハッテン場が、セックスすることだけをメインにしている場所なのは重々承知していたけど、ボクという人間性が完全に無視されて肉体的な結びつきだけで、精神的な結びつきを全く感じさせない状態だと辛くなってきた。

もっと目の前にいるボクのことをちゃんと見て欲しいと思った。

ただ彼のことを責めることはできなくて、ボク自身も彼のことを高校時代に好きだった先輩と重ねてしまっていた。彼という人間性を存在しないものとして無視しているのは同じだった。目の前の彼のことをしっかり見ようとしても、彼の存在を無視して頭に浮かぶのは先輩の顔ばかりだった。

目の前で興奮してくれる彼が先輩だったらよかったのに……

そんなことを考えて自分も他人のことを批判できないよねと思っていた。

彼はボクの手の中で2回イッた後も、さらに自分の手で1回イッてしまった。その後、シャワーを浴びてから戻ってきて、ベッドに倒れ込んで「一方的にイッてごめんね」と言ってきた。ボクは「気にしないでいいですよ」「それにボクの方はイカなくても大丈夫ですよ」と言ってあげた。ちょっと高級なシャワールームに入ると彼が大事にしていたユニフォームが濡れたままぐしょぐしょのまま風呂場に置いてあったので「洗っておきますよ」と声をかけた。

このユニフォームは彼の宝物なんだろうな。

そんなことを思いながら何度も洗ってからしっかり絞って干しておいた。

<つづく>