で……いきなり激しく話が逸れたけど何の話を書いてたっけ?
そうだった。彼とホテルで寝ているところだった。逸れてしまった話を戻すことにする。
結局、彼はぐっすりと朝まで寝ていたけどボクは、ほとんど寝ることができずに、そのまま少しだけまどろんだけだった。7時になったら彼の携帯のアラームが鳴った。彼の学会発表は10時からのセッションらしく、9時にはホテルをチェックアウトして会場に移動すると言っていた。
ちゃんとしたホテルで夜から朝まで一緒に過ごしたのは彼が初めてだった。次に経験するのは、もうずっと後で、この文章を書いている最近のことになる。
ボクはもう服を着て帰ろうと思っていた。
「朝ごはんはどうするの?」
「家に帰ってから作るのがめんどくさいから、どっかマックか吉野家辺りで食べてから帰ります」
なんでマックか吉野家かというと、当時はすき家や松屋と言った店が、まだ京都市内で見かけることも少ない時代だったからだ。ボクが大学を卒業するくらいになってから、ようやくぽつぽつと見かけるようになった。サークルメンバーで朝までカラオケした後で、皆で朝食を食べに行く店といえば四条河原町にある吉野家くらいだった。もしくは朝方まで開いているラーメン屋だった。
そのまま始発のバスに乗って眠気と闘いながら家に帰って、昼まで眠るというのがお決まりの展開だった。もちろん大学1年から2年までの話だけど。
「京都駅の構内の適当な店で一緒に食べない?」
彼からの思ってもみない提案だったので、少し考えてから「いいですよ」と答えた。
ボクらは服を着て部屋から出た。
もちろん部屋を出る前に、最後にもう一回だけ抱き合ってキスしてから出た。
彼の私服はどこかの安物スーパーで売ってそうなほどの、みすぼらしい服だった。大学生のボクの方がよっぽどまともな服を着ていた。でも服装に無頓着そうな彼のマイペースな性格がなんだか可愛く思えた。高級ホテルには似合わないような格好で若い二人が連れだって歩いているのが自分でもおかしかった。
これはずっと後で気が付いたんだけど、恐らく彼はホテルの朝食券のようなものは持っていたはずで、もしかしたら朝食をキャンセルしてボクに付き合ってくれたのかもしれない。
この時代は、やっぱりまだスターバックスやドトールなんて喫茶店は現在ほど存在していなかった。二人で京都駅構内をふらふらと散策していると、ちょっと古びた感じの喫茶店を見つけた。
「ここのモーニングセットでいい?」
「いいですよ」
特に反対する理由もなかったので、その店に一緒に入ることにした。
ちゃんとした喫茶店で一緒に食事したのは彼が初めてだった。次に経験するのは、もうずっと後で、この文章を書いている最近のことになる。
<つづく>