絶対に会えてよかった<66>

喫茶店に入ると新聞を読んでいる年配の客が何人かいた。地元に住んでいる常連客のようで、店に昔からある置物のように馴染んでいた。京都駅に近いけど、観光客らしく人はいなかったので、ボクと彼の若い男連れ二人の存在は自然と浮いてしまった。

店内はタバコの煙で充満してて店に沁みついているし、机や椅子も重厚な感じがしていて、かなり前から営業してるんだろうと思える古い店だった。

空いてる席に座ると従業員のおばちゃん。きっとマスターの奥さんが近づいてきて、メニューを渡してくれた。

いったい……何を頼めばいいんだろう?

この時。ボクは生まれて初めて純粋に喫茶店として専門にやっている店に入った。

メニューには何やら意味不明な飲み物の名前が沢山書いている。

ブレンドコーヒー。アメリカンコーヒー。モカ。コロンビア。キリマンジャロ。ブルーマウンテン。カフェオレ。

ちょっと待ってくれ! コーヒーってなんて奥が深くて高度な知識が必要なんだ。こんなに種類があるなんて聞いてないぞ。他にも沢山の飲み物が書かれていて、何がコーヒーで何が紅茶なのかの区別すらつかなかった。

今でこそ、休みの日になると喫茶店にばかり行ってるけど、まだ大学時代には喫茶店に行く習慣なんてなかった。ボクが毎日通っていた大学の近くの定食屋で、食後のサービスとしてコーヒーが付いていて、きちんと目の前で豆を挽いてから作っているコーヒーを飲んでいて「なかなかコーヒーって美味しいな」と思っていた。でも店がサービスとして出してくれたいたから、自分で選んで注文したことはなかった。

「ウィーンナーコーヒー」って何それ?

これはウィンナーかソーセージかハムみたいなものがコーヒーの中に入っているのかな? それにしてもウィンナーのような肉類をコーヒーを一緒に煮るなんて、なんて斬新な飲み物なんだ。こんなゲテ物ぽい飲み物なんて注文するわけにはいかない。

ボクの頭の中では、おぞましい飲み物が渦巻いていて、きっとお子様専用の飲み物なんだろうと勝手に決めつけていた。

目の前の彼は少し考えた後に、モーニングセットになっているブレンドコーヒーとサンドイッチを頼んでいた。

ブレンドコーヒーって何?普通のコーヒーと何が違うかな?ヤバい。早く決めないと……同じ出身地なのに、ボクの方は田舎者丸出しだ。

どうしよう早く何を注文しないといけない。

ボクは焦って「もう飲み物なら何でもいいや」と思って、なんとなくカッコよさそうな名前が目についたので、それとサンドイッチを頼むことにした。

ボクの注文した飲み物を聞いて、おばちゃんは一瞬だけ驚いた態度をした。彼女の頭上で「!」と「?」の記号が点灯したのが、はっきりと見えた。隣の席で新聞を読んでいた年配のお爺さんもチラリとボクの顔を意味深に見た。目の前に座っている彼も「へぇー」と感心していた。ウェイターのおばちゃんは注文内容をマスターに伝えていたけど、注文を聞いたマスターもチラリとボクの方を見た。

あれっ? この四人の微妙な反応はいったい何なんだろう?

そんな疑問を抱きつつも、田舎者としてのプライドもあって「いかにも喫茶店に慣れてるオーラ」を出して気取って座っていた。

「変わってるね。本当に飲むの?」
「えっ?まぁ……そんなに変ですか?」
「いやー俺は苦手なんだよね」
「そうなんですかー」

むしろボクの方が何が出てくるのか知りたいくらいだった。

<つづく>