絶対に会えてよかった<73>

まっすぐな道路を走っていると、そのうち右手に坂道が見えてきた。

車は右折してその坂道を上り始めた。途中から道路は途切れて舗装もされていない砂利道に変わった。道は先に進むほど狭くなっていった。まだ工事中の道なのか、途中には草が茂っていて、このまま先に進んで行っても行き止まりになってそうだった。でも彼はそんなことを全くに気にする様子はなくて、車は草や枝があたってパンパンと音を立てながらも進み続けた。

もう一人で京都の家まで帰ることはできないかもしれない。

完全に山の中に入り込んでしまっていて方角の見当もつかなくなってしまった。

ボクが心配をしているのに気がついたのか、彼は「ちゃんと京都まで送ってあげるよ」と言ってくれた。

彼はこの山によく来るんだろうか?

彼にははっきりとした目的地があるように思えた。

システム関連の会社を起業しているくらいだから、こういった山奥に仕事で用事があるとは思えなかった。きっとボクと同じように出会い系の掲示板で知り合った誰かを連れて、この山奥まで来てるんじゃないだろうかと思った。

しばらくすると金網が見えてきて行き止まりの標識がかかっていた。

どこなのか分からない山奥でようやく車は停まった。

ここは京都と大阪の境目辺りなのだろうか?

それとも既に大阪に入っているのだろうか?

ヘッドライトが照らす先は枯れた草むらと金網だけだった。

彼はブレーキをかけて停車した。そしてボクに向かって「降りて」と言ってきた。ボクは言われるがまま助手席から降りてドアを閉めた。

なんとなくこれから先に起こることの予想ができてしまった。

車のエンジンはかけたままで、相変わらず微かにラジオが流れていた。それと虫の鳴き声が微かに聞こえていた。闇に目が慣れてきて周囲を見渡すと金網の先に粘土質の土壁が目についた。やっぱり何かの工事現場のようだった。

しばらくすると彼も運転席から降りきた。そして運転席のドアを開けたまま助手席側に立っているボクの元まで足早に近寄ってきた。そして近寄ってきた勢いのままボクの体を抱きしめてきた。

あっ……やっぱりここでヤる気なんだ。

何となく山に連れて来られた辺りで彼の行動を予想はしてた。

でもドライブに誘われた時に、心のどこかで夜景の綺麗な所に連れていってくれたり、もしく公園のような場所に連れて行ってくれて、ゆっくりと話したいのかと期待していた。

なんだ…この人も結局はヤるのが目的なのか。

ボクの中で彼に対する思いが急速に冷めていくのを感じた。

<つづく>