絶対に会えてよかった<74>

彼から送られてきたメールには「本気で付き合える真面目な人を探していて、実際に会って話をしてみたい」と書かれていたけど、これなら野外のハッテン場で会った人たちや銭湯にいた人たちと変わらないと思った。

彼はボクを抱きしめたまま、片手で後部座席のドアを開けて、ボクを押し倒してきた。彼の鼻息が荒くてベルトを外してズボンとパンツを下ろした。さらにボクの腕を掴んで股間を触るように促してきた。そしてボクの服を脱がせようとしてきた。

野外でヤるなんて絶対に嫌だった。

山の中で人が全くいなかったとしても野外や銭湯や公衆トイレといった場所でヤるのは、ボクの中で絶対にありえなかった。そういった法律に反するようなことは絶対にやりたくなかった。

「すみません。野外でヤルのは嫌なんですけど……」

これだけは本気で嫌だったので気が付いたら思わず口に出してしまった。もし彼が怒ってしまって山の中で捨てて去ってしまっても、野外でヤるよりはマジだと思った。捨てられた時は、山道を歩いてヒッチハイクでもして帰ろうと本気で思っていた。

「じゃあ。どこでならいいの?俺の家は実家だから無理だよ」

一瞬だけ「じゃあ。ボクの家に行きますか?」と言おうと思ったけど、きっと彼とは二度と会うことはないと思ったので自分の家に誘うのを止めた。家の位置を覚えられてしつこく誘われても困ると思った。

どこにしようかな?

もうボクの方は彼に対して完全に覚めてしまっていて、ただ彼に気持ちよくなってもらって後腐れなく円満に別れることだけを考えていた。

「どこかラブホテルでも行きませんか?」

屋内でゲイ同士で寝る場所なんて、お互いの家かラブホテルか有料ハッテン場くらいしか思いつかなかった。

それまでラブホテルに行ったことはなかった。

ただ何となく興味だけはあった。映画やドラマなどのテレビで見かけることはあって、なんだか楽しそうな場所だなと思っていた。どうせ彼と関係を持つのなら、少しでもテンションが上がる場所の方がよかった。

「どこか心当たりのホテルはある?」

と訊かれたので「そういったホテルには行ったことがないから知らないです」と答えた。彼は「じゃあ。俺が行ったことのある京都のホテルにしようかな?」と言ったので、表面上は明るく「どこでもいいですよ」と言ってあげた。

彼は抱きしめていたボクの身体を離してチャックやズボンを履き直した。そしてベルトを締めてから大人しく運転席に戻っていった。ボクも彼の後をついてから助手席に戻った。

とりあえず京都に戻れるのなら帰り道の心配はしなくて住みそうだった。でも本心では、もう彼とのことはどうでもよくて、さっさと終わらせて家に帰りたかった。

<つづく>