絶対に会えてよかった<76>

ラブホテルの駐車場には、思ったよりも沢山の車が停まっていた。

車を降りてドアを閉めると、彼から「そこのドアを開けて先に入っていいよ」と言われた。確かに、他の客から同性同士でホテルに入る姿を見られるのはまずいと思ったので、駐車スペースに書かれているナンバーと、同じナンバーが書かれているドアを開けて中に入ろうとした。

彼のことが気になって後ろを振り返ると、「後で行くよ」と言って車の背後に姿を消してから、木の板を抱えて戻ってきた。いったい何をしてるのかと思ったら、車のナンバープレートを隠すように板を置き始めた。よく見ると他の車のナンバープレートの前にも同じように木の板が置かれていた。

なるほど。こうやって身元がバレるのを防いでいるのか。

彼の手際のよい行動を観察していて「やっぱりそれなりの頻度で、こういったホテルを利用してるんだろうな」と思った。

ドアを開けると少し長い階段が目の前にあった。

その階段をゆっくり登って右手に曲がると、すぐに目の前に二つ目のドアがあった。

もしかしてドアを開けるといきなりフロントがあるのかな?

そんなことを思ってドアを開けるべきか迷っていると、彼が追いついてきて代わりにドアを開けてくれた。

ドアを開けるとホテルの一室が目の前にあった。入ってすぐの左手には洗面所とお風呂があって、右手にはトイレがあった。部屋の奥に進むと、十畳くらいのスペースの左手にダブルベッドがあって、右手にはソファとローテーブルとテレビがあった。

どうやら地下の駐車場から地上の一階部分の個室につながっているようだった。駐車場から直接個室に入れるみたいで「これは同性同士で他の客には入ってもバレないよな」と思った。他の客と顔を合わせる機会は、駐車場の車に乗る降りするタイミングしかなかった。

へぇー。ラブホテルって、こんな感じになのか。

彼はやっぱり手慣れた感じでベッドサイドの電話機を取って誰かと話をしていた。生まれて初めてこういったホテルに来たから、その間、ボクはどこにいればいいのか分からずに緊張感もあって、所在なさげに立ってキョロキョロとしていた。彼は「1時間利用する」などフロントに伝えているようだった。

ボクは緊張しながら電話のやり取りを聞いていた。

ホテルのどこかに監視カメラが設置されていて、同性同士で入っているのをばっちり見られていて、利用を拒否されるんじゃないかと思っていたからだ。監視カメラは絶対にどこかに設置しているだろうし、同性同士で入っているのはバレていると思った。

それなのに全く問題なく会話が終わって電話が切られた。

意外と同性同士でもラブホテルの利用って簡単なんだ!

心配をよそに、あっけなくホテルの利用ができて安心した。

彼は性欲が我慢ができないのか「シャワーを浴びてくる」と言って浴室に入っていった。ボクは興味津々でホテルのパンフレットなどを読んで時間をつぶしていた。

ただラブホテル自体には関心があったけど、やっぱり彼には関心が持てなかった。

<つづく>