絶対に会えてよかった<81>

今となっては「顔」も「会話の内容」も思い出せない人。でも確かに実際に会った人。

話の流れで、ついでにそういった二人ほど続けて紹介する。

一人目は、真冬の深夜遅く。京都の桂川にかかる渡月橋の上で出会った人だった。

ボクは待ち合わせ場所に先について缶コーヒーで手を温めながら橋の上で待っていた。原付は桂川沿いの駐車場に停めていた。しばらく待っていると、ラガーマンのような体格をした人が現れた。「どこか近くの大学のラグビー部かアメフト部かな?」と思って、よく顔を見ると年齢的には大学生を超えて社会人ぽい感じだった。

彼は出会って話しているとすぐに、

「ちょうど俺の家に友達が二人ほど来てるんだけどさ。四人で一緒にヤらない?」

と言った。

ボクは「この誘いに乗ったら絶対に危ない」と思った。

そう判断して丁重に断ってから、その場を慌てて後にした。

そもそも「二人で会って話そうか?」ぐらいのメールのやり取りだったのに、いきなり複数でヤるなんて展開は予想していなかった。彼の方も「あっそう。じゃあ。バイバイ」と軽く感じで言って元来た夜道を戻っていった。

目の前の一人を相手にするのも、ボクの非力では対抗できない。友達と言っている人たちも、彼と似たような体格だと思った。1対3。とてもじゃないけど逃げることはできない。

彼と別れて家に戻ってから出会い系の掲示板を見ると、ボクの書き込みの数件ほど上に、彼の物とおぼしき書き込みがあった。

複数でまわされて種付けされたい奴いない?

メールに書かれていたプロフと同じで、投稿時間を見るとボクと別れてから数分後の書き込みしていた。

彼の誘いを断って慌てて逃げてきたのは正解だった。多分、彼の誘いに乗って部屋に入っていたら、3人がかりで無理やり襲われていたと思う。ボクはパソコンの画面を見ながら「危なかった……」とゾッとした。

しばらく経ってから掲示板を見ると、相手が見つからなかったのか、過去の書き込みを消して、新たに同じよう内容の書き込みを投稿していた。翌朝に掲示板を見ると、朝方にも新たに同じ内容の書き込みを投稿していた。その翌日も彼とおぼしき同じ書き込みを見かけたけど、翌々日には見かけなくなった。

もうボクの記憶には、彼の顔は残っていない。ただ渡月橋で出会った人がいるということだけ覚えている。

今となっては、単にラガーマンぽい短髪で体格のいい感じの人という特徴しか覚えていないけど、出会い系の系掲示板経由であった人で「複数でヤらない?」といった誘いを受けたのは、この人が最初で最後だった。今に至るまで、そういった人たちの誘いの地雷を踏まなかったのは、ただ運がよかっただけのように思う。

二人目とは、京都市内の真ん中辺りの交差点が待ち合わせ場所だった。

これも真冬の時期だった。メールには30代と書いてあったけど、40代を軽く超えている人が路地裏からいきなり現れた。.ボクはその人の顔を見てから「あること」に気が付いた。

<つづく>