ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。過去や現在のことを綴っています@福岡

絶対に会えてよかった<93>

店を出て下の階で足音が聞こえた瞬間、ボクは少しだけ立ち止まった。下の階の方でも誰かが立ち止まったのか、少しの間、足音が聞こえなくなった。


やっぱり誰かいるのだろうな。


そんな感じでお互いに立ち止まって耳を澄ませて階上と階下の様子を探っていた。


しならくして階下の様子を探りつつも再び歩き出すと、階下の方でも再び足音が聞こえてきた。ボクの方には避ける場所はなかったけど、相手の方は1階だったので顔を見られるのが嫌であれば、一旦建物から外に出るなど避けることもできはずだ。5つくらい階段を降りると、スーツ姿の黒いコートを着た男性の姿が目の端に入った。


ボクらははっきりとお互いの姿が見える位置に来る前に気まずくなって目をそらした。


ボクも店から出てきたばかりだったし、その人も今から店に入るところだと思った。自分の顔を覚えられたくないので、こういった状況ではジロジロ見ないというのは暗黙の了解のようになっていた。その建物は2階までしかなくて、この階段ですれ違うということは「有料ハッテン場」を出入りすることを意味していた。つまり彼もボクと同じゲイだということを意味していた。


その人は下を向いて顔を背けたまま階段を上っていた。ボクの方も下を見て顔を背けていたのだけれど、顔を背ける前に目の端に入った姿が「少し年配な人」という感じがしたので気になってしまった。普段のボクなら明るい場所では、自分の顔を見られないように、相手の顔を見ないように顔を背けて歩くのだけれど、「もしかして『あの人』かもしれない」と気になって、すれ違う際にこっそりと顔を見てしまった。


あぁ……やっぱり『あの人』だ


すれ違った際に、相手の顔を見た瞬間に、数週間前に一度だけ会った『あの人』だと気が付いた。


ずっと待っていた「あの人」だった。


ボクは立ち止まってから振り返って、彼の背中を眺めた。彼は気まずそうに下を向いたまま足早に階段を上っていた。彼の背中は少しだけ猫背なのが特徴的だった。暗闇の中で見た猫背のシルエットをよく覚えていた。


「あの……」


ボクは勇気を出して彼に声をかけた。彼は声をかけらけれることなんて予想をしていなかったようでビクッと体を震わせて硬直していた。そういえばとっくに年齢制限をオーバーしているので、店に入る時は物音と立てないようにこっそり入っていると言っていたのを思い出した。ただ一度声をかけてしまったので、もう続けて話しかけるしか他になかった。


「何週間か前に会ったんですが覚えてますか?」


<つづく>