子供の頃の「100人いれば90人くらいは仲良くなれる」という状況から、大人になるにつれて人数はどんどん減っていって「100人いても1人くらいしか仲良くなれない」という状況になってしまった。
大学時代、「ノンケの世界」ではゲイであることをバレないように装っていたけど、2年目のある時期から、「ゲイの世界」に足を踏み入れることになった。ただ「ノンケの世界」で、どこか距離を置いて他人行儀な接し方をする癖がついてしまったので、「ゲイの世界」でも他人行儀な接し方をするようになっていた。
ある日のこと。
敬語は禁止!!
そんな言葉が書かれた顔文字付きのメールを受け取った。
メールの相手とは、ゲイ向けの出会い系の掲示板を通して知り合った仲だった。
どういった文章でメールの返信すればいいんだろう?
ずっと他人と距離を取って接してきたせいで、いきなり親密な感じで接するように言われても、どうすればいいのか途方に暮れてしまった。あれこれ考えながら、ぎこちない感じの文面でメールの返信をしたけど、その人からの返信は来なかった。
結局、大学時代の最後まで、ノンケに対しても、ゲイに対しても、どこか壁を作ったままで終わってしまった。
それから就職活動が始まった。
ボクの就職活動の時期は「就職氷河期」と言われた時代だった。
どの企業も求人が極端に少なくて、最初は大手企業の面接を受けていたけど、採用まで漕ぎつけるのは無理だった。ちなみにボクの就職活動していた翌年から就職氷河期は溶け始めて、翌々年ぐらいから就職氷河期は完全に溶けたようだ。ボクの年代が就職氷河期の最後に当たっていた。
ボクの中では実家に帰るという選択肢は絶対に無くかった。なんとか仕事を見つけようと足掻いていた。それと大学時代、ゲイであることを隠したまま生きていたから、社会人時代になっても継続するつもりだった。ゲイであることがバレないように、なるべく人と深く接することがないような仕事をしたいと考えていた。
1つ目の要件。就職氷河期でも求人がある仕事。
2つ目の要件。なるべく人と接することが少ない仕事。
そんな2つの要件を満たす仕事があるのか調べてみると、一つだけ条件を満たす業界があることに気が付いた。
それは「IT業界」だった。
この時期、IT業界はそれなりに求人があった。ちょうど人材が不足していた時期でもあって未経験でも採用を行っていた。そしてボクの中のIT業界と言うとパソコンに向き合って仕事をしていればいいというイメージが強くて、この仕事であれば他人と深く関わらないで済むと思っていた。朝に出勤してからパソコンに向かって仕事をして、夕方に同僚と深く付き合う必要もなく帰宅して、ちゃんと仕事さえしていればいいと勝手に思っていた。そして、なぜか漠然と「未経験でもなんとかなる」と根拠のない自信があってIT業界を志望したところ、ブラック企業が多いIT業界の中でも、 割と普通の会社に就職することができた。
社会人になって仕事が始まったから、1つ目の要件に関しては条件を満たしていると思った。でも2つ目の要件は満たしていないことに気が付いた。
IT業界は人と接することなくパソコンに向かって黙々と仕事をしていればいいという勝手な妄想を抱いて入社したけど、すぐに崩れ去ってしまった。
<つづく>