駐車場に停まっている白い車の中では、下を向いてスマホをいじっていた男性が顔を上げて、じっとボクらの方を観察していた。
ボクは車から視線を外しながらも目の端で、じっと車内の男性の姿を捉えていた。きっと「こいつらは何者なんだろう?」と思われてるんだろうと思った。ボクらは見た目だけではゲイぽい要素がほとんどない。彼も「こいつらはゲイなのか?ノンケなのか?」と戸惑っているはずだった。
これ以上、あの人の邪魔したら悪いよね。
そう思って隣にいる彼に「もう帰りましょう」と言った。
はっきり言って「ハッテン場めぐり」なんて悪趣味なのは分かっている。
でも、約15年ぶりに来た野外のハッテン場は、とても懐かしい気持ちを蘇られせてくれた。毎日、部屋にこもって過去の記憶を辿りながら文章を書いていたけど、大学時代に感じていた緊張感を生々しく思い出すことができた。それに隣にいる彼はこういった世界に踏み込んだ経験がなかったから、ボクが昔にいた場所を、いつか案内してみたいという気持ちもあった。
ボクは駐車場に戻る前に、もう一度だけ公園内を見渡してみた。
「本当に懐かしい」と感じた。
やっぱり公園内のどこを見ても、大学時代の夜に見た景色と重なる場所ばかりが目に付いた。
そんな中、ふとトイレ近くのベンチに目が付いた。
そのベンチをじっと見ていると、大学時代の自分が座っているような不思議な感じがした。
なんだかベンチを見ていると目に涙が溢れてきてしまった。涙ぐんでいるのが恥ずかしくて隣にいる彼にはバレないようにした。
ずっとベンチに座って誰かが来るのを待っていた。
どんな人を待っているのか分からないけど誰かが来るのを待っていた。
夜の闇に耳を澄ませて足音が聞こえないか待っていた。
何度も掲示板を見ては誰かの書き込みがないかを待っていた。
でも目の前に現れる人は肉体関係を求めるばかりだった。
結局、誰かを待ち続けて15年以上も経ってしまった。
もし大学時代の自分が、この公園のベンチに座っていたとして、今の自分なら何を話しかけてやれるんだろうか?
もし若いゲイの人が、この公園のベンチに座っていたとして、今の自分なら何を話しかけてやれるんだろうか?
と思った。
「君が誰かに出会うには後15年以上はかかるよ」
と、そんな残酷な事実を伝えるのだろうかと考えた。「いいや。そんな事実を伝えるよりも大事なことがあるんじゃないか?」と考えた。
もし「今のボク」が「大学時代のボク」と、あのベンチに座って話をするのなら、
「そうやって誰かを待ってばかりいないで、自分から動いて誰かに会いに行ってみたらどう?」
と伝えてあげたいと思った。
「じっと誰か待つことに時間を使わないで、失敗してもいいから自分から誰かに会いに行ってみたらどう?」
と伝えてあげたいと思った。
<つづく>