ゲイショップの思い出<6>

人通りが多い住吉通りにいつまでも立っているわけにはいかず、ゲイショップの前に立っている姿を見られたくはないので、ボクはドアを開けて店に入った。

店に入って左に曲がると、まず下着コーナーが目に入った。ボクサーパンツやケツワレといったゲイ関連の下着が並んでいた。それから目と移すと店の中央にレジがあって、さらに奥の方にアダルトグッズやゲイ動画が置いていた。

ボクは「へぇーこうなってるんですね」と言いつつも期待感が急速に薄れていた。

その理由は店の半分を占めるくらいの割合で下着が置いてあったからだ。

はっきり言って、ボクはゲイ関連の下着には全く興味がない。

過去に何度か書いたけど、そもそもコスプレに対しては全く興味がない。おしゃれな下着を着ているからといって全く興奮もしない。むしろ、その人なりに似合った私服を普通に着ているだけの姿の方が好きだ。彼と一緒に日曜日の朝にNHKの『日曜美術館』を観ながら、司会の小野正嗣さんの服装をこっそりとチェックするくらいに私服姿が好きだ。

そんな訳で店の約半分近くが下着コーナーになっている状況を見てがっかりしてしまった。

ケツワレにしてもボクには何がいいのか分からないので「なんで下着ばかり置いてるのだろう?」と不満だった。ただ、一方で下着コーナーが店の大部分を占めてしまう状況も分かるような気がした。恐らく大部分の人がゲイ動画やアダルトグッズに関しては、インターネット経由で購入しているはずだ。わざわざリアル店舗で恥ずかしい思いをして買う必要なんてないはずだ。Amazonでレビュー評価を確認してから買った方が安全だ。それに比べて下着などの衣類は実物を見てから買った方がいいと思う人が多いはずだった。

ボクは下着を何枚か見た後、興味がなくなって下着コーナーを通過した。そしてレジの前を横切って店の奥に進んでいき、アダルトグッズが置いてあるコーナーに移動した。

彼と一緒に「これは何に使うのかな?」と気になった商品を手に取って話していた。すぐに何に使うのか分かる物のあれば、使用用途の不明な物もいくつかあった。

ボクらはあれこれ使用方法を推測したり妄想したりして会話を楽しんでいた。

そして、ボクは「こういうアダルトグッズってゲイブロガーのAIR-Jさんが詳しそうです」と恐れ多い発言を連発していた。

何に使うのか分からない商品を見つける度に「AIR-Jさんなら使い方を知ってそうです」「AIR-Jさんなら持っているかも?」と言っていた。東京から遠く離れた福岡のゲイショップで「AIR-J」の名前を連呼していた。

どこでどうなったのか分からないけど、ボクの中でAIR-Jさんは、アダルトグッズに精通しているという自分勝手な像が出来ていた。

何を質問しても「彼なら即答してくるはずだ」という根拠のないAIR-J像が出来上がっていた。ボクの頭の中でストロング缶を片手にドヤ顔していた写真は、いつの間にかオナホールを片手にドヤ顔している写真に置き換わっていた。AIR-Jさんには福岡のゲイショップで名前を連呼したことを、この場を借りて謝罪したい。

ただ、そういった感じでAIR-Jさんの名前を連呼しつつも他人のことをとやかく言える立場ではなかったりする。秘密を打ち明けてしまうけど、ボクはこの時期「オナホール」 という物に並々ならぬ関心を持っていた。

<つづく>