ゲイショップの思い出<9>

ボクらは移動して2人並んでDVDを眺めていた。大体7列ぐらい設置された棚にはゲイ動画のDVDがぎっしりと陳列してあった。

彼は「これ知ってる」と言って何本かのDVDを指差していった。彼の指さしたDVDを手に取ってパッケージを眺めてみたけど、どうやらボクと彼のゲイ動画の好みは違っているようで知っている作品が一つもなかった。

彼が正直に話してくれたのだから、ボクの方も恥ずかしながら正直に話そうと思っていた。

ボクは知っているDVDのタイトルをじっと目で追って探した。

でも知っているタイトルを見つけることはできなかった。

「見つからないです……」

いくつかの棚を探しても、ボクがおかずにしているゲイ動画は出てこなかった。いくつもの棚の端から端まで目で追って焦りながら探してみたものの見つからなかった。

彼から「全く……いつもどんな動画をおかずにしてるんだか」と意地悪そうに言ってくるので、ボクは「別に隠している訳じゃなくて本当に置いてないんですよ!」と抗議するものの説得力は皆無だった。

彼から「他人には教えられないような変態的なゲイ動画をおかずに使っているのだろう?」という疑心暗鬼の視線を浴びながら、ボクは「変態」という汚名を晴らすために焦ってゲイ動画を探した。せめて一本くらいは、ボクがおかずに使っているゲイ動画を教えてあげたいと思って必死に探すものの見つからなかった。

ボクって……そんなにマニアックな動画をおかずにしてたっけ?

と、自分自身に疑心暗鬼になりそうなくらいに一本も見つけることが出来なかった。はっきりとタイトルを覚えていないので、手に取って裏面の内容説明やモデル写真を確認しても見つけることはできなかった。ちなみにボクはモデルの名前を全く覚えていない。

ボクの好みのタイプの男性というと、ある出版社の社長の井之上達矢さんだったり、落語家の春風亭昇太さんだったり、小説家の小野正嗣さんだったりと、およそゲイ動画には出演しているタイプではない人が好みのタイプだったりする。それで実際の好みのタイプはゲイ動画に出演していないので、妥協して適当なゲイ動画をおかずに使っている。

それで、ボクとしては「ありきたりなゲイ動画」をおかずに使っているつもりだったけど、どうやら『コンボイ』のような中古市場に出回ることもないような物を使っているようだ。ボクは「そんなに需要がないゲイ動画をおかずにしているのか?」と悲しくなった。

彼から「早く教えろ」「隠してるだろう」というブーイングを浴びながら、棚の端から端まで必死に探してみたけれど、ボクがおかずに使っているゲイ動画は結局一本も見つけることができなかった。

<つづく>