ゲイショップの思い出<10>

今となっては言い訳のようにしか聞こえないけど、ボクはおかずにしているゲイ動画を彼に本気で教えようとしていた。隠しているつもりは全くなくて、ただボクが持っているゲイ動画が一本も置いてなかったのだ。

帰り道、店を出て住吉通りを歩きながら、彼は「なんだかんだ言って隠しやがって!」とか「教えられないような動画ばかり見てるんだろう?」と抗議してきた、ボクは「そうじゃないです」と反論していた。もちろん彼がわざと疑わしそうな顔つきを作って言っているだけで、本気で抗議しているのではないのは分かっていた。

結局、ボクらが店にいる間、他の客は2名しか来なかった。

そのうち一人のお客が、チラチラとボクらの方を見ているのを感じていたけど、その客から見ても、きっとボクと彼は恋人関係には見えなかっただろう。ボクらが話している姿を見知らぬ人が見たら、きっと不思議に思うに違いない。

それは年上のボクの方が「敬語」や「丁寧語」で彼に話しかけているのに、年下の彼の方が「タメ語」でボクに話しかけているからだ。

こんな微妙な状況を生んでしまったのは、完全にボクの性格の原因だ。傍から見ると、外見上は「友達関係」か「先輩後輩の関係」に見えるかもしれないけど、実際に話す時の言葉遣いは、上下が逆転していて、ボクらの会話を聞いた人は混乱するに違いない。以前、ある観光地に遊びに行った時に、案内してくれたおばちゃんから「今度は彼女を連れて来てね」と優しく言われた。ボクらは建物から出た後に「彼女じゃなくて彼氏は既に連れて来てるけどね」と言って笑い合った。

駅に向かって歩きながら、彼から「今度、家に行ったら持っているゲイ動画を見せてね」と言われた。

ボクは適当にはぐらかして明確な回答を保留にしておいた。それでもしつこく言ってくるから「じゃあ。わざと普段は見たこともないようなハード物の動画を探して見せますね」と言って誤魔化した。彼はソフト物が好きでハード物が苦手なのだ。ボクは彼の抗議を受け流しながら歩いた。

彼の願望は未だに実現していない。

これもボクの性格が原因だ。ああいったアダルトショップならともかく、二人きりの家にいる状況で、自分がおかずにしているゲイ動画を見せるのを生々しく感じて、なんだか恥ずかしいのだ。「アダルトショップにいる」という状況の手助けがないと恥ずかしがり屋のボクには無理だったりする。

傍から見れば、馬鹿馬鹿しいやり取りにしか見えないけれど楽しい夜だった。

<つづく>