絶対に会えてよかった<99>

彼は「地元の祭りがあって酒を飲んだ勢いで、そのまま店に来た」と酒臭い息を吐きながら説明してくれた。彼の体はフラフラとおぼつかなく揺れていて、呂律も規則正しく回っていなかった。いつになく強気にボクの体に触れようとするも、そのままもたれかかってきて千鳥足の状態だった。

「この状態でどうやって店まできたんだろう?」と思いながら彼を個室に連れていき寝かせた。それからロッカーに行って水入りのペットボトルを取りに行って飲ませたり(有料ハッテン場はエアコンのせいで空気が乾燥するので近くのコンビニで水を買って入るようにしていた)、話し相手をしてあげたりと、有料ハッテン場で酔っぱらいの介抱をしたのは、これが最初で最後だった。

「奥さんは大丈夫なんですか?いつもは残業を理由にして店に来てるのに、休日に帰らなかったら心配するんじゃないですか?」と質問した。彼は「いつも通りに深夜1時までに帰れば問題ないと思う」と言った。「かなり酔ってるみたいだから寝過ごさないように注意してくださいね」と言うと、「どうせ嫁との関係は終わっているから大丈夫」という後ろ向きな答えが返ってきた。それから「それに俺は酔っぱらっていない」という好戦的な答えも一緒に返ってきた。

「奥さんだけじゃなく娘さんもいるから帰らないといけませんよ」
「……」

あれっ……彼の反応がない?

ボクは彼からの数秒ほど回答を待った。

その数秒後。

「ぐぉぉーーーーー」

というけたたましい騒音が、回答の代わりに鳴り響いた。

えぇーえ。話している途中で寝ちゃったの。

彼が目を覚ますのを暫く待ったけどそんな気配はなかった。ボクは彼をゆすって起こした。その度に、彼から「寝てた?」とか「ちゃんと起きてるよ」と返事はあるけど、数秒もしないうちにいびきをかきはじめた。

酔っぱらったまま寝ているせいなのか、彼のいびきは異常なくらい大きかった。

どこからともなく店内から「五月蠅せぇ!」という声が聞こえた。どこからか舌打ちまで聞こえてきた。まだ22時くらいで今から盛り上がる時間帯なのに、そのムードをぶっ壊すくらいの勢いで、彼の豪快ないびきが店内に鳴り響いた。

このまま放置するわけにはいかない。

ボクはそれから何度も彼の体をゆすって「ちゃんと起きて家に帰らないと駄目ですよ」と言ったけど、それから彼が目を覚ますことはなかった。

ボクは彼を放置したまま諦めて帰ることにした。少なくともボクは何度も起こした。でも彼は起きなかった。

このいびきだと深夜一時どころから朝方まで爆睡してそうな勢いだった。「まだ終電前に間に合うからもう帰ろう」と思って立ち上がって個室のカーテンをめくった。

すると目の前にボクと同年代位の男性が立っていた。

その男性は「五月蠅くて眠れない!」と言って抗議してきた。

<つづく>