ライナーノーツ<8>~同性愛者の友達が欲しい~

「ゲイ向けの出会い系の掲示板を経由して、初めて出会ったゲイ仲間は女装子だった」

大学時代、周囲のノンケの人たちにも「出会い系の掲示板」に書き込みをしている人がいた。もちろんボクの書き込んでいた掲示板とは求める性の対象が違っていた。

ある飲み会の最中、先輩の一人が「出会い系の掲示板に書き込んで女性と会ってみた」と、酔っぱらった勢いで語り始めた。その場にいた人たちは興味津々といった雰囲気で先輩の話に耳を傾けていた。

その先輩曰く、掲示板上でやり取りしていた女性と実際に会ってみたら、予想よりもずっと年配の女性だったらしく、その女性の容姿に対して文句を言いながら「それでもホテルに行って寝た」と話していた。その場で話しを聞いていた人たちは本音を表情には出さないようにしていた。ボクは「ゲイもノンケも出会い系の掲示板の世界は大して変わらないんだなー」と呑気に考えていた。

飲み会の帰り道。その先輩の話を一緒に聞いた友達と二人きりになった。

そして友達から「出会い系の掲示板に書き込むとかありえないよね?」と話しかけてきた。ボクは「そんな掲示板に普通は書き込みしないよね」と作り笑いをして答えていた。友達は「そういった掲示板に書き込もうと思ったことが一度もない」と話しかけてきたので相槌を打った。

まさか一見、地味で真面目そうに見えるボクが、夜な夜な「出会い系の掲示板」に書き込んでいるなんて、隣を歩く友達も想像もしていないだろう。しかも「ゲイ向けの出会い系の掲示板」に書き込んでいたなんて全く想像もしていないはずで、「ボクがやっていることを知ったら幻滅するだろうな」と思いながら会話を続けた。

生まれて初めてゲイ向けの出会い系の掲示板に書き込む。

あの時の緊張感が今でも忘れられない。

何度も何度も文章を書き直して、落ち着いていられずに部屋の中をウロウロと徘徊して、ようやく観念してから椅子に座った。そしてドキドキしながら震える手でマウスを持って、カーソルを動かして画面上の投稿ボタンを押した。

そして出会い系の掲示板を経由して初めて会った人は女装子だった。ちょっと失礼な表現になってしまうけど失敗気味の女装子さんだった。

ボクは京都市の「丸太町通り」を目にする度に、イサムさんと会った夜を思い出す。あの夜、横断歩道を渡って近づいてきた彼の姿を思い出す。ボクは彼の姿を見て平静を装うのに必死だった。その場に彼を残して逃げ出したい気持ちもあった。

彼は「こんな姿で驚いた?」と申し訳なさそうに言った。

ボクはその姿を見て逃げるのを止めた。同情や好奇心に近い感覚ではあったけど、一人の人間として彼と話してみたいと思った。

あれから10年以上経つ。

今となっては彼と出会った夜の出来事は、ボクにとって大切な思い出の一つになっている。

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