「ハッテン場を漂っている声にならない思いを文字にしてみたい」
そんなことを考えながら『住吉奇譚集』を書いた。有料ハッテン場で感じた自分の思いを、できるだけそのままの鮮度で文字に落としたかった。それで忘れないうちに急いでメモを取って文章を書いた。
先日、彼と一緒に住吉の街を歩いていた時、たまたま『住吉奇譚集』の中に出てきた一軒目の店の前を通り過ぎた。文章を書いた時と、店の門構えはすっかり変わってしまっていた。恐らく最近になって『住吉奇譚集』の文章を読んで一軒目の店を探しても、どの店のことを言っているのか分からないだろう。二軒目の店に関しては、ボクにとっても人生初のタイプだった。ああいった年配の人向けの有料ハッテン場が存在するとは知らなかった。
もうあの夜から1年半以上が経った。
この『住吉奇譚集』の最後に以下のような文章を書いた。
この『住吉奇譚集』は将来の自分宛に書いたものだ。「あぁ……昔はバカなことをしてたな」と思うのか、「今のボクと変わらないな」と思うのか、十年後、二十年後に読んだ自分の反応がどちらになるのか考えると今から楽しみだ。
隣を歩いている彼を眺めながら「10年どころか1年半の間に前者の反応になってしまった」と感じた。
ちなみに隣を歩いている彼も一軒目の店に行ったことがあるらしい。
彼がゲイとして生き始めてからまだ日は浅い。そんな彼が行ったことのある数少ない店だ。聞いた話によると誰からも相手にされなかったらしく、誰か話し相手を求めて探してみたけど駄目だったようだ。
ボクと同じように2階の通路に立っていたと聞かされて胸が締め付けられた。
同じ日の同じ時間に店に行って彼の話し相手になってあげたかった。もう二度と彼をあの場所に立たせたくない。
有料ハッテン場の廊下で、無言で立っている人も、無言で通路を歩いている人も、声に出さないけど、いろいろ考えているはずだ。むしろ声に出さない分、それだけ頭の中で沢山のことを考えているはずだ。
ボクが書けるのは自分が感じたことだけだけど、それでもボクと似たようなことを考えている人はいるはずだ。
ゲイの人たちが感じている声にならない思いを文字にしてみたい。
それは何も有料ハッテン場や野外のハッテン場といった場面に限らない。学校や職場や自宅でもいい。そういった場面でゲイの人たちが感じた声にならない思いを文字にしていきたい。
それが、ボクがこのサイトに文章を書き続けている理由の一つだ。