本屋でデートするのが好きだ。

彼と一緒に街中を歩いていて本屋を見かけると、ふと立ち寄ってしまう。

よく見かける売れ筋の新刊本が沢山置いているような本屋には興味がない。喫茶店が併設されたようなおしゃれな若者向けの本屋にも興味がない。どちらかというと裏路地や商店街の片隅で、怪しいオーラを漂わせているような本屋が好きだ。

書店員のはっきりしたセレクト意識があるのかないのかも分からないような、少しカオスな本屋の方が面白かったりする。そんな怪しげな店を目にすると「ああぁあ。あぁーやばい。行きそう。行く行く行く行く行く」と、どこかの動画で口走ってそうな言葉が脳内をよぎる。

彼の家に初めて行った時、本棚を見せてもらった。本棚を見ればその人がどんなことに関心があるのか、どんな人になりたいのかなど大体は分かる。ボクも彼も子供の頃から結構本を読んでいる方なので、二人とも出版業界にそれなりに貢献している。

以前は本屋に入ると、そのまま一緒に本棚を見て歩いていた。

ところが最近は一緒に本屋に入っても、すぐに別々に行動するようになった。そしてお互いの興味のある分野の棚を探して向かうようになった。これは喧嘩している訳ではなくて、お互いに別の分野に関心があることを理解し合って、別行動しても「あの分野の棚の周辺に彼はいるだろう」という予想が付いているからだと思う。

本屋に入ってしばらく時間が経って、ボクは自分の興味のある分野の本をチェックし終わってから彼がいる場所を見つけて声をかける。彼が「まだ本棚を見たい」というオーラを漂わせていたら、その場を離れて自分の興味のある本棚に戻るか、もしくは彼の興味のある本棚を一緒に見ている。彼の趣味に関しては書くのを控えるけど、ボクの興味がある分野は、歴史関連や美術関連や詩集などの文芸関連だ。

彼と重なっている興味のある分野は全くない。

それが逆に嬉しかったりする。

先日、彼と熊本の街を歩いていて、目についた本屋に何軒か立ち寄った。その中には古本屋もあってアマゾンでも売ってないような掘り出し物が沢山置いてあった。ボクはずっと探していた塔和子さんの詩集を見つけて衝動買いしてしまった。

その次の古本屋では彼の興味のある分野の本が沢山置いてあった。彼は脚立に乗って本棚の高い所から分厚い図鑑サイズの本を次々と取り出した。

ボクは脚立の下に立って本を受け取りながらも「こんな大きくて重たい図鑑サイズの本を何冊も買って熊本の街を歩くつもりなのか」とびっくりしていた。

ただ脚立に乗って子供のようにはしゃいでいる彼を目にすると和んでしまう。結局、彼は図鑑サイズの本を2冊ほど購入した。そしてデカくて重たい本をカバンに入れたまま熊本市内を散策した。どこかの漫画の中で重たい亀の甲羅を背負って修行するシーンが描かれていたけど、重たいカバンを背負っている彼と重なって見えて少しおかしくて和んでしまった。そんなことを考えつつも彼が買ったのはとても良い本だと思っていて衝動買いしちゃう理由も分かる。カラーページも多く関心を持っているごく一部の層しか買わない内容だけど、今の出版業界の体力では出すことができない贅沢な本だと思う。

あれこれ書いてみたものの、ボクはお互いの興味のある分野が全く違う状況なのが面白いと思っている。

一人の人間が関心を持つ対象にも限界がある。

お互いの視点であれこれ話しながら一緒に本屋や観光地をして歩くのがとても楽しい。これからもお互いに得意なことや苦手なことを助け合いつつ生きていきたい。こういったことも誰かと一緒にいる醍醐味の一つだよなとつくづく感じている。