ライナーノーツ<18>〜母親にゲイとバレる日〜

「母親ってどれだけ多くの秘密を抱えて生きているのだろう?」

タイトルの通り『母親にゲイとバレる日』は、母親から「ホモなのか?」と問い詰められた話だ。

ボクは母親からたった一度だけしか問い詰められていない。

いきなりの質問だったので下手な演技で誤魔化すことしかできなかった。逃げるように自分の部屋に戻ってからカミングアウトしてしまった後悔とバレてしまった緊張で心臓の鼓動がはっきり感じられたのを今でも覚えている。

以前、母親と雑談している時に「どこの母親も家庭内の秘密を沢山抱えて生きている」と漏らしたことがある。

ボクは彼女の言葉を聞いてドキッとした。

ボクと母親の間には、ゲイという側面の秘密だけでなく、もっと別の側面の秘密が沢山ある。彼女はその秘密を夫にも漏らしたことがない。兄にも漏らしたことがない。母親はその言葉の後に「その秘密を話して揉めるのが嫌だ」と付け加えた。さらに「どうせ話しても解決しないから死ぬまで秘密にしておくと」と言った。

その言葉に対して深く追求できなかった。

ボクは「いったいどれだけの秘密を胸に抱えているのだろう」と思いながら、それとなく彼女の横顔を見た。

母親の胸の内が海の底のように暗く深く感じた。

ボクと母親だけの秘密も沢山あるけど、同じように兄と母親だけの秘密も沢山あるはずだ。ボクは二人の間にあるはずの秘密を聞かされたことが一度もない。夫との間にも秘密は沢山あるだろう。

でも彼女はほとんど隙を見せない。彼女自身の秘密は息子のボクにとって全くの謎だ。ボクの家庭は父親が仕事でほとんど家にいなかった。家庭の事情を知らない父親から口出しされても面倒なことが増えるだけだという思いもあるのだろう。母親の言葉は「自分一人で家庭内の問題は対処する」という決意の表れのようにも感じた。

ボクと彼女の間で「ボクがゲイかもしれない」ということは一番大きな秘密だ。

その秘密も家族内ではボクと母親の胸の中だけにしまっている。

同級生の母親から「お宅の息子は男が好きなのよ」と聞かされた時、彼女はどう感じたのだろう?その場面を想像すると胸が痛くなるけど、恐らく同級生の母親は冷やかすような馬鹿にしたような感じで言ったに違いない。

彼女は家族の秘密を沢山抱えて生きている。

きっと彼女は死ぬまで自分の胸の中にだけで秘密にしているだろう。

そして彼女の身体と一緒に秘密は消えて無くなるのだろう。

いつかその日が来た時、ボクは彼女の死を悲しみながら「最後まで秘密にしてくれてありがとう」と感謝するのかもしれない。

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