ライナーノーツ<23>〜二度と戻りたくない場所〜

「最初は彼と付き合っていることを含めて書くつもりはなかった」

今でこそ付き合っている彼との関係を文章で書いているけど、当初は書くつもりは全くなかった。書くようになったきっかけはいくつかあるけど、映画『愛と法』を観たのが一つにある。『愛と法』は弁護士のゲイカップルの南和行さんと吉田昌史さんの日常生活を中心に描いたドキュメンタリー映画だ。

ボクは南さんや吉田さんが、どんな部屋に住んでいて、どんな会話をしていて、どんな食事をしているのか、そういった彼らの日常生活に興味があって上映を心待ちにしていた。

異性同士のカップルであれば親や周囲を見れば観察対象はいくらでも見つかる。でも同性同士のカップルはなかなか見つからない。その頃、ボクが関心を持って読んでいるゲイブログの対象も変わっていた。例えば、のりさんの『僕らの日記』のようにゲイカップルが一緒にキャンプをしている様子を描いたブログなどを中心に読むようになっていた。のりさんたちがどんな風に付き合っているのか強い関心を持って読んでいた。彼と出会うまでだったらゲイカップルの日常生活を書いた文章を読んでも遠い世界の出来事のようにしか思えなかったけど状況が一変していた。

映画の中で、南さんが歌っているシーンがある。

南さんが歌っているのは早くに両親を亡くした吉田さんのために作詞した歌だ。事前にその歌をYouTubeで聴いて、映画の中でもその歌のPV作成のシーンが取り上げられることを知っていた。

ボクは南さんの歌を聴いて、冷静そうな感じの吉田さんは苦笑いするか、もしくは反応に困るのではないかと推測していた。それにPVの中でピアノの弾き語りをしている南さんのシーンの途中で、「KAZU FUMI FOREVER」とハートマーク付きのフェリーが画面に映る。このシーンにも驚いてしまった。でも映画の中での吉田さんは予想に反して南さんの歌を泣きながら聴いていた。そして泣きながら歌を聴いている吉田さんの姿を、南さんのお母さんは少し離れた場所から見守っていた。二人の関係や、二人の周辺にいる人たちとの関係が感じられる好きなシーンだ。

その映画に関連したインタビュー記事だったか動画だったかは忘れてしまったけど、吉田さんが「自分たちのようなゲイのカップルが、どんな生活を送っているのか知ってもらうことは、若いゲイの人たちにとっても何かの役に立つかもしれないと思ったので撮影依頼を受け入れた」という風なコメントをしていた。

吉田さんの言葉を聞いて、ボク自身も彼と付き合いだして、他のゲイの人たちがどういった付き合い方をしているのか知りたくてしょうがなかったことを思い出した。ボクと同じように思っている人がどこかにいるはずだと思った。それでボクも若いゲイの人たちのために、自分たちがどんな生活を送っているのか書くことに決めた。それで『二度と戻りたくない場所』を書いた。

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