おのぼり二人紀行<5>

僕が読んでいる本は『沢木興道聞き書き』(著者:酒井得元)だ。

 

本を読むのに集中して「飛行機事故」ついて考えないようにしている矢先。

 

大体、人間はいつ死ぬるかもわからないものではあるが、いざ死ぬというときには、あっさりといってしまうもので、いわば都合が悪いからちょっと待ってもらうというわけにはいかない、まことに待てしばしのないものである。このとき、この広い世界になに一つあてになるものはないのだということが、しんからわかったような気がした(講談社学術文庫 P.26-P.27)。 

 

そんな文面に出くわした。

 

うーん。旅行に持って来る本のチョイスを間違えたのかもしれない。

 

僕の頭の中に「飛行機事故」という言葉が再び沸き起こってきた。もはや集中できなくなってしまったので読むのを諦めた。隣の席を見るとアイマスクをした彼の頭が飛行機の振動に合わせて左右に揺れていた。

 

機内案内で「当機はまもなく着陸の準備に入ります」というアナウンスが流れると彼も目を覚ました。窓側の席に座っていた客がシャッターを上げたので外の景色が見えるようになった。眼下には海が見えて、眼先には東京の街が見えた。この際「そこら辺の海の上でもいいから早く着陸しろよ」と叫びたいのを我慢して、徐々に地上が近づいていくので「この高さで落ちたら死ぬかな」とか「この高さで落ちたら怪我ですむかな」とか、「この高さなら大丈夫」とか、そんなことを思うと高度がまた上がったりしてイライラした。そもそも窓の外を見ない方がいいのだけれど、やっぱり我慢できなくて見てしまう。

 

そんな葛藤と闘いながらも、ようやく成田空港に到着した。

 

僕は時刻表を撮影しながら「今回の旅行を文章に書こう」と今更になって思いつく。

 

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空港に着陸するとお互いに「お腹が空いたね」と言い出した。でも空港周辺では味と値段のつり合いが取れて納得できる食事場所がない。それで「早く宿に荷物を預けて食事に行こう」と言うことになった。まずは京成成田空港線に乗り、荷物を預けるために宿泊先に向かうことになった。彼は腹ペコ状態になって少しグッタリ気味だった。僕はそうでもないけど彼はお腹が空くと元気がなくなる体質なのだ。

 

彼から「どこの国の料理が食べたい?」と訊かれたので、僕は「中華料理が食べたい」と答えた。彼はスマホを片手に探し始めた。ただ宿泊先の位置から都合のいい食事場所が見つからず、なかなか決まらないようだった。「とりあえず宿泊先近くで探してみよう」ということで落ち着いた。僕は電車の窓から景色を眺めていた。千葉県の風景が僕の実家に少し似ていて懐かしい気分に浸った。そのうち印旛沼が見えてきた。しばらくして新鎌ヶ谷駅を過ぎて江戸川を越えて葛飾区に入ると住宅が一気に増えて東京に来た感がした。それから一度だけ電車の乗り換えをして「蔵前駅」に到着した。

 

僕らの宿泊先は蔵前にあった。

 

都営浅草線の蔵前駅から地上に出てアプリを使って宿を探した。その日は快晴で地上に出ると頭が熱くなってすぐにカバンの中から帽子を出してかぶった。それからアプリを頼りに宿までたどり着いた。そして受付に荷物を預けた。

 

時刻は既に12時を過ぎていた。ようやく荷物から解放されて「どこで料理を食べようか」と言って食事モード突入できた。お腹の具合から蔵前で食事を済ませたかった。でも蔵前周辺を歩き回っても納得できる店が見つからなかった。それで「御徒町駅」まで移動することになった。

 

<つづく>