おのぼり二人紀行<8>

僕らは喫茶店の近くの駐輪場で自転車を借りて明治通りを北に向かった。

 

その途中で国立競技場の案内看板が目に入ったので「ついでの建築中の競技場を見てみよう」ということになり千駄ヶ谷小学校の交差点で右折した。まっすぐに道を走るとテレビ画面で見慣れた新国立競技場が見えてきた。そのまま国立競技場の道路を沿って走りながら目にしたものの、建物が大きすぎてどこか高い位置から見下ろす形でないと近くから見ても何が何やら分からなかった。

 

ちなみに僕たちが使用しているのは赤色のレンタサイクルだ。僕らが旅行している間でも、同じレンタサイクルを使用している人を何人か見かけたので、恐らく都内に住んでいる人はどこかで見かけたことがあると思う。指定の駐輪場に停めてあって借りたいと思った自転車の管理番号を確認してスマホの画面に入力すればパスコードが送られてくる。そのパスコードを自転車についているパネルに入力すれば施錠が解除される仕組みになっている。もちろん途中で鍵をかけて駐輪してもメールで届いているパスコードを再入力すれば再び乗ることが出来る。支払いは登録したクレジットカード払いになっている。ちなみに電動アシスト付きなので坂を上るのも問題ない。ただ僕らが乗った時間帯は西日がきつく暑かった。そのため日焼け止めをしっかりと塗って帽子をかぶっていた。

 

僕らは国立競技場の側を抜けて新宿御苑沿いに走って新宿一丁目に入った。そのまま走り続けていると、どこか見知った景色が目に入ってきた。

 

僕らは新宿二丁目にたどり着いた。

 

約一年ぶりだな……

 

もともと僕が「行ってみたい」と希望したのだけど、仲通りに入ってから自転車から降りて手で押しながら歩いた。別に何か新宿2丁目に用事があったわけじゃない。でもなんとなく懐かしさに惹かれて来てしまった。

 

1年前の2018年5月5月。僕はほとんど今回と同じ時刻にこの場所に立っていた。それからこの街の隅々まで散策して夜まで時間をつぶしていた。多くは書かないけど、僕は今でもあの夜のことをよく思い出す。今年はもう来る機会がないと思っていたけど、誰かと一緒に来ることになるとは思わなかった。

 

自転車を押しながら歩いているとスマホを片手に目をギラギラさせながらこっちを見ている人もいた。そんな中、彼は道路脇の花壇に赤い花をつけた植物を見つけた。この街の歩いているゲイが目に留めても全く反応しないような花なのだけど、彼にとってはそこら辺にいるゲイの人たちよりも道端の花の方がよっぽど興味があるらしい。僕は花を見つけてはしゃいでいる彼を見ながら「このマイペースさが好きだ」と思っていた。

この日はとにかく西日がきつかったので水分補給を兼ねて「ちょっと休憩しよう」ということになった。

 

僕らは仲通りを右折して新宿公園に自転車を停めた。

 

<つづく>