「そうかな?ヒロトがホモだと思ったことないけど」
ボクは友達との会話をそっちのけにして、A君のグループの会話に耳をすましていた。A君のグループは遠くからヒロト君を観察しながら会話している。
「いや!前々から思ってたけど、あいつ絶対ホモだって!」
「そうか?ホモには見えないけど」
ヒロト君の様子を探ってみたけど、教室の離れた場所にいたからA君の声は聞こえてないみたいだ。 A君は仲間に同意を求めていたけど、みんな興味がなかったようで他の話題に移っていった。ボクと同じようにヒロト君が同性愛者だと気づいている生徒がいたことに驚かされた。A君はヒロト君のどこを見て同性愛者だと感づいたんだろう?A君とヒロト君が二人きりで会話している姿を見たことがなかった。ヒロト君はボクと目が合うことがあっても、A君を見ていることなんてなかったように思う。ボクはヒロト君の話題がすぐに終わって安心していた。
しかし数日後、A君は驚くべき行動に出た。休み時間中、A君は席に座っているヒロト君に向かって大きな声で言った。
「ヒロトってホモだろ?」
教室内で騒いでいる人も少なく、教室にいた全員にA君の声が聞こえてしまい静まりかえっていた。ボクはすぐにヒロト君を見た。ヒロト君は席に着いたままA君を一瞥して下を向いて肯定も否定もせずに黙っていた。無視されたA君は苛立っていた。
「無視するなって!絶対ホモだろ?」
ヒロト君は黙って下を向いたままだ。無視されたA君はボクの姿を見つけて言った。
「神原から見てもヒロトのことホモって思うよね?」
突然、ボクに同意を求めてきた。お前も同性愛者の仲間だから分かるだろ?という理由から声をかけてきたのだろう。その場を取り繕うためにボクは言った。
「えっ〜とそうなの?そうは思わないけど・・・よくわからない」
ボクが同意しなかったから、A君はさらに苛立っていた。
「あいつ絶対ホモだって!」
教室にいる生徒全員が二人のやりとりを黙って聞いていた。誰も同意してくれなかったA君は諦めて自席に戻って行った。ヒロト君は最後まで黙って下を向いていた。そのうちチャイムが鳴り授業が始まった。
<つづく>