短章集

許すこと

許すことができる人と許すことができない人の違いは何だろう。 例えば水俣病について、チッソがやったことに対して許さないと怒りを抱いていた人たちがいた。そんな人たちの中から、時が経るにつれて「チッソを許す」と声が上がるようになった。そういった許…

いつか手にする本

いつかの日か手に取って目にするのをずっと楽しみにしているものがある。 それは一冊の本だ。まだこの世で出版されていない。 その本が出版されるのを、ずっと待っている。 僕は文学賞なんて興味がない。どこかの出版社が主催している賞なんて興味がない。あ…

石牟礼道子と渡辺京二

渡辺京二が書いた『もうひとつのこの世《石牟礼道子の宇宙》』を読んだ。以前から石牟礼道子と渡辺京二の関係について気になっていたからだ。 この二人の関係に、僕は人間関係の根源的なものがあるように感じていた。 両者ともに家族がある。それなのに渡辺…

何のために?

我々は何のために来たか。 人のために何かをさし出すためである。 私は何も他のことを知らず ただ詩によって何かをさし出すためである。 私を食え、食いちぎれ。 私のつくった小さい実を食いちぎれ。 その時はじめて私は一緒に喝采に加わるつもり これは永瀬…

多様性と一様性

多様性は大事なことなんだろうか? 一様性は大事ではないのだろうか? 多様性ばかりに目を向けても違いばかりで人と結びつくことができず 一様性ばかりに目を向けても違いを排除して人と結びつくことができず 多様性の中にも人と結び付く鍵はあるだろう 一様…

悲しみについて

遠藤周作『影に対して: 母をめぐる物語』という本を読んだ。 2020年に見つかった遺稿なのだが、この本を読んでから遠藤周作に対する熱が再燃した。子どもの頃に読んで、ずっと心の中に残っていた遠藤周作の本を買いなおして再読した。中学時代から本格的に小…

ぼくは不安です

職場では障害を持った人たちを清掃員として雇用している。その清掃員の中で、すれ違うと必ず挨拶をしてくる20代の男性がいる。少し前に、給湯室を兼ねている休憩室に入ったところで、その清掃員の男性がノートを広げて日報を書いていた。真剣な顔をしてノー…

タコ捕り

土本典昭監督の『水俣-患者さんとその世界』を見た。その映画の中でお爺さんがタコを捕っている映像がある[*1]。実際の映画ではyoutubeに掲載されているシーンよりも長い。 この映像の中で出てくるお爺さんはタコを歯で食いちぎっている。そのタコはチッソの…

須賀敦子

須賀敦子という作家の本を読むようになった。去年の初めころに『コルシア書店の仲間たち』という本を手に取って読み始めたのだが、その時は、はっきり惹かれることはなかった。ただ漠然と心のどこかで彼女の存在がひっかかっていた。 それから年末頃。新しく…