夜遅い時間というのが原因かもしれない。勉強から解放されたのが原因かもしれない。ボクもヒロト君もいつもよりテンションが高くなっていた。ボクらは誰もいないプラットホームの端の方に移動して会話していた。
「神原さんって同性愛のことを公開してて凄いよね」
ヒロト君の口から初めて同性愛に関しての話題が出てきた。別の生徒からもよく言われることだったのでいつも通りに返答した。
「頭おかしいでしょ?」
「いや〜そうは思わないよ」
ヒロト君は苦笑いしながら答えた。テンションがおかしかったボクはいつもより多弁になっていた。
「ボクなんてホモなのが母親にバレてるかもしれないよ」
「えぇ!!それは凄いね」
話してる途中に終電が来た。ボクらが乗って間もなく電車が出発した。ヒロト君もいつもより確実にテンションが上がっていた。ボクに次々と同性愛に関連した質問をしてきた。確かめるにはこのタイミングしかないと思ったボクはそれとなく切り出してみた。
「前から気になってたんだけど聞いていい?」
「何?」
「間違ってたらごめん!ヒロト君ってさ。こっち(同性愛者)なの?」
ボクは直接的な「同性愛者」と言う言葉は控えて聞いた。ヒロト君は一瞬ためらった後に、少し恥ずかしそうに言った。
「うん・・・バレてた?」
「やっぱりそうだったんだ」
ヒロト君の回答は予感はしてたけど、改めて打ち明けられると驚いた。でも表情には出さないようにしていた。
「いつぐらいから気付いてた?」
「結構前から気付いてたよ」
「ボクのこと見てるよね?」なんて指摘はしなかった。
「そうなんだ・・・バレてたんだ〜」
少し照れながらヒロト君は笑っていた。途中の駅で次々人が降りていったので、電車内にはほとんど人がいなかった。ボクらは同性愛という言葉は隠して会話していた。
「こっち(同性愛者)の人とあったことある?」
「ヒロト君がはじめて会った仲間だし、ボクは中学時代からこっち(同性愛者)だった」
「俺も神原さんがはじめて会った仲間だよ。こっち(同性愛者)に目覚めたのは小学生からだった」
そうかヒロト君は小学時代から同性愛者だったのか・・・ボクより早かったことに驚いた。
「神原さんってこっち(同性愛者)の世界で付き合っている人いないの?」
「全くいないよ?さっきも言ったけどヒロト君がはじめて会った仲間だし」
「そうなんだ〜やっぱり同じ仲間同士でしか無理だよね・・・」
ヒロト君の会話の内容や目線がなんとなく怪しい雰囲気になってきた。話題をそらすついでに、ボクは前から気になっていたヨウスケ君について聞いてみた。
「そういえばヨウスケ君って夏期講習とか行ってないの?」
「神原さんってあいつのこと好きなんだよね?」
「うん!ヨウスケ君ってなんとなくカッコよくて可愛いからね」
恥ずかしい発言も同性愛者同士だから抵抗なくできた。
「そうかな?俺はそうは思わないけど・・・あいつは別の塾の夏期講習に行ってるよ」
「しかしヨウスケ君の周りも凄いよね。ボクに好かれた上に、友達もこっち(同性愛者)だからね」
「そうだよね〜あいつの周りこっち(同性愛者)だらけだよね?こっちの人(同性愛者)に好かれるタイプなのかな?」
ヨウスケ君がいたら本気で怒るだろうな〜と思いつつ笑いながら酷い話をしていた。
1時間半の時間があっという間に過ぎ、ヒロト君の降りる駅に着いた。もっと話したそうだったけど名残惜しいそうにヒロト君は言った。
「じゃあ・・・また明日!」
「うん・・・また明日ね」
ボクらには「この話は秘密にしておいてね」なんて念押しは不要だった。電車から降りたヒロト君は手を振って改札口をくぐっていた。
これがボクの人生の中ではじめて同性愛者同士で語り合った日になる。
<つづく>