ノンケに生まれ変わりたい<2>

レジにたどり着いたボクはレジの店員に知り合いがいないことを確認した。そして他の客がいなくなったタイミングを見計らって急いでレジに向かい大人しい雰囲気の男性の店員に本を渡した。ボクは携帯電話でメールを打ってるフリをして、ひたすら目を合わせないようにした。店員から金額を言われる前に、足りる分だけのお金をトレイに置いて渡した。

「カバーはかけますか?」

「いえ・・・いいです」

新書にカバーをかけるか聞かれたが、カバーをかけられたらせっかく漫画本に間に隠した書籍のタイトルの同性愛という言葉が丸見えになってしまう。早く本を袋に入れてくれ!というボクの切実な願いが届いたのか手際よく袋に入れて手渡してくれた。

「ありがとうございました!」

本とお釣りとレシートを受け取ったボクは逃げるように書店を後にした。ほんの1分間の出来事だったが酷く精神的な疲れを感じた。

はじめて同性愛に関する本をじっくり読むことができるという期待に胸を膨らませて、急いで家に帰ったボクはさっそく袋から本を取り出した。なるべく優しそうな内容の本を2冊選んだつもりだったが、先に少し難しそうな本を読むことにした。本を手に取って畳に寝転がってページをめくった。

まずは目次に目を通した。

「日本の同性愛の歴史、海外の同性愛の歴史、同性愛者とエイズの問題・・・う〜んとても内容が難しい上に、なんだかボクの知りたい内容ではないな」

本に書いてあることは、ボクが抱えている悩みとはかけ離れている内容に思えた。パラパラと本文をめくっても興味を引く内容はなかった。作者自身が同性愛者ではないし、あくまで同性愛について研究や調査結果を書いたレポートのような本だった。ボクは少し難しそうな本を投げ捨て、もう一冊の本を手にして読み始めた。先に読んだ本よりは優しそうだが、やはり同性愛についての研究や調査結果を書いた同じような内容ばかりだった。

ただ目次やタイトルで、いくつか気になる言葉が目に付いた。

「ノンケって何?・・・発展場って何?・・・こっちの本も同じエイズについて書いてあるな・・・」

読み進めていくうちに言葉の意味もわかるようになってきた。

「同性愛者ではない異性愛者のことをノンケって言うのか・・・同性愛者には発展場って出会いのスペースがあるのか・・・そんな場所があるなんて知らなかったな。もしかしてボクが行った銭湯も発展場になるのかな?」

ボクは興味を持った箇所に目を通して、読み終わった2冊の本を本棚に置いた。大学時代のボクは発展場はもちろん、ノンケという言葉の意味も知らないくらいに無知だった。

1冊目の本よりは貴重な情報が手に入ったが、ボクが求めている内容ではないように感じた。今でこそ同性愛について優しく説明した書籍や、同性愛者自身が書いた体験本がいくつか出版されているが、ボクの大学生時代にはそんな書籍はほとんど見当たらなかった。恐らく当時のボクが読みたかったのは、同性愛者として生きることの悩み書いた内容や、同性愛者として生きていく上で直接的に役立つ内容を書いた本だった。


<つづく>