ボクが手を繋いだ一番の理由は謝罪だった。イサムさんの肉体関係の希望に応えることができないので、せめて手を繋いであげようと思っていた。繋いだイサムさんの手は冷たかった。
「タカオミ君の手は暖かいな。私の手・・・冷えててごめんね。そういえば今日は誰かとヤるつもりはなかったんだよね?ごめんね」
「こっちもごめんなさい。まだこの世界についてあまり知らないので話し相手とか友達が欲しくて探してました」
「友達か・・・難しいね。この世界ってセッ○スがありきじゃないかな?」
同性愛者と話すのはイサムさんで2人目だ。ボクは事情がわからないので、「そうなんですか?」とイサムさんの言葉に合わせた。
「私も友達はいるけど、友達とハッテン場でヤったりしたことがあるし、私がハッテン場でヤってたら隣の布団で友達がヤられたりしてたこともあったよ」
なんだか凄い世界だなと・・・ボクは困惑していた。
「知り合いの子なんか、彼氏に黙ってハッテン場に行たら、そこで付き合ってる彼氏と出会ったこともあるよ。他の男とやってるのがバレたりしてさ」
「狭い世界なんですね・・・」
同性愛者の人口的は圧倒的に少ない上に、発展場という少ない溜まり場に集中して人が集まるんだから、浮気をしてたら見つかるだろうなと思った。
「お前なんでハッテン場にいるんだよ?ってさ・・・でも相手もハッテン場にいるんだから責められないよね」
話しながらイサムさんはクスクス笑っていた。ボクは聞いてみた。
「イサムさんは付き合ってる人はいるんですか?」
「いるよ。でも私も付き合ってり人がいるのに、こうやってタカオミ君に会ってるし」
ボクは驚いて言った。
「いいんですか?」
「いいって・・・どうせ相手も誰かと会ってるから」
ボクはイサムさんの言葉に反応できず黙って聞いていた。
「同性愛者同士の付き合いなんて、恋人でも友達でもそんなことばっかり」
特に悲しそうな素振りも見せずにイサムさんは何事もないかのように言った。
終電に乗る駅に着いた。手を繋いで話しながらゆっくり歩いていたので思ったよりも時間がかかっていた。ボクはネットで見て、その駅のトイレもハッテン場になっているのを知っていた。イサムさんは駅の入り口に立ってもう一度ボクを口説いてきた。
「まだ30分くらい時間があるけどダメかな?」
やっぱりボクはその気になれなかった。
「ごめんなさい・・・」
イサムさんは言った。
「じゃあキスしないから抱きついてもいい?」
人目が気になって周囲を見渡したけど、なぜか駅前は人通りがなかった。
「いいですよ」
ボクはそう答えた。そしてボクが答えた瞬間にイサムさんは抱きついてきた。
<つづく>