僕が有料ハッテン場に行ってしまう理由

 有料ハッテン場に行く時、ボクはいつも店の前で立ち止まってしまう。なかなか店に入る勇気が出なくて、大学時代は三十分ぐらいかかって店に入っていた。社会人になってから回数を重ねても十分ぐらいかかってしまう。何も迷うことなく店に入れた試しがない。

 迷っている間、何を考えているかというと、親のことだったり、友達のことだったり、職場の同僚のことだったりで、「こんな自分の姿を見たらどう思うんだろう……」と後ろめたく感じながら、人の目につかない暗がりの中で、ぼぉーと有料ハッテン場の入った建物を見ている。そんなボクの目の前を何人もの男性が真っ直ぐ横切って店に入って行く。みんな常連客なのだろうか? 足取りには全く迷いが感じられない。「やっぱりこんなに迷っているボクって変なのかな?」と悩んだりもする。

 なかには一階が飲み屋で、二階が有料ハッテン場になっている建物もある。ボクが店に入る勇気を出なくて、建物の外をうろうろしていると、一階の窓ガラス越しに、飲み会で盛り上がっている、カップルだったり、友達だったり、職場の同僚たちが、楽しく騒いでいる。ふと見上げると、二階の窓ガラスは真っ黒なカーテンで遮られて、ビルの中の様子を全く伺うことができない。一階で楽しく騒いでいる人たちも自分たちが騒いでいる店の上の階が有料ハッテン場なんて思ってもいないだろう。上の階では、全裸の男性たちが店の中を彷徨って、セックスする相手を探しているのだ。

 対極的な光景を見比べながら、ますます自分のやろうとしていることが後ろめたくなってしまう。でも結局、誘惑には勝てなくて散々迷った挙句、店に入ってしまう。

「もしかしたら、今日こそはセックスだけの関係じゃなくて、本気で好きになれる男性に出会えるかも」

 そんな絶対あり得ない希望を抱きながら……