同性への憧れと恋愛の境界線<8>

 通学中に彼の家の前を通り過ぎる時は、ゆっくり通り過ぎるようになった。

 もしかして彼が家から出て来ないかな。

 そう期待をしながら通り過ぎていた。結局、彼には会えなかったけど、彼の弟には出会うことができた。兄と顔が似ているので、すぐに弟だと判別ができた。家から出てきた弟は、自転車に乗ってボクのいる方に向かって来た。目が合ってドキドキしたけど、小学時代に出会ったボクのことなど忘れているようで、ボクの横を通り過ぎて行った。

 やっぱり小学時代のことなんて覚えてないよね。ボクも母親から言われるまで思い出すこともなかったんだし。

 ボクは苦笑いしながら彼の弟の後ろ姿を見ていた。

 季節は高校一年の冬になった。彼は高校三年で受験を控えていた。ボクのつまらない恋愛感情を打ち明けて、彼の勉強の妨げになってはいけない。そう固く決心をしていた。

 でもボクにはどうしても気になっていることが一つだけあった。

 結局、ボクらは初対面ではなかったのだ。もしかして彼はボクの顔を見た時から、ボクのことを知っていたのではないか?

 このことだけはどうしても確認してみたかった。

 月日が流れ十二月になった。この塾で彼と会える機会は、もうほとんどないだろう。ボクは彼が来るのを心待ちしていた。次に二人きりになる機会があれば、その時に勇気を出して確認してみようと決めていた。

 玄関が開いて、廊下を歩く足音が聞こえた。ボクにはドアの擦りガラスに映った姿だけで、彼だと分かった。

「おっす!」

 ドアを開けてボクと目が合うと彼がいつもの挨拶をしてきた。

「おっす!」

 ボクも笑顔で頭を下げながら返事した。彼は初めて会った時と同じように、席についてから、すぐにカバンから筆箱やノートを出して勉強を始めた。秋に初めて出会った時に着ていたジャージの上に、黒のカーディガンを羽織っていた。

 彼と話すには二人きりのタイミングでないといけない。それには先生の存在が邪魔だった。ちょうどいいタイミングで小学生のクラスの授業が終わり、先生は車で生徒を家まで送るために出かけることになった。しばらくすると賑やかな小学生達の話し声も小さくなり、車のエンジン音がして塾から遠ざかっていくのが分かった。

 塾にはボクと横溝さんの二人だけになった。 
 
<つづく>