カミングアウトの代償<5>

 高校の担任も欠席が多いので、心配して声をかけてくれたが、欠席の原因は、自分がゲイであることに悩んでいるのが原因ではなかった。無理をしてホモのキャラクターを演じていることに対するストレスからだった。そもそも担任の先生はボクがゲイであることを知らなかった。あくまでボクがゲイであることは知っているのは生徒だけだ。中学時代も先生には噂が伝わっていなかった。

 ボクは悩みを先生に打ち明けるつもりは毛頭なかった。先生をただ戸惑わせるだけだろうと思っていた。

 最近、学校の授業でもLGBTに関して取り上げるべきだという記事を見かけた。授業で取り上げること自体は反対ではないけど、ボクのように既に同級生にカミングアウトしている人がいたら、その授業中はどうやって耐えればいいのだろう。

「神原ってホモなんですよ」

 授業中、先生に対してそんな発言をする生徒が現れたら、先生はどう対応するつもりだろう。教科書には模範解答が記載されているのだろうか。その授業日は恐らく欠席することになるとは思うけど、同級生から逃げたと同情の目に晒されるのもきっと嫌だろう。

 高校時代に太宰治の『人間失格』を読んだ。その小説の第一の手記と第二の手記の冒頭に、主人公が【道化】を演じることについて書かれている。その文章を読んだ時、まるで自分のことを見透かされているような気がした。ボクは自分のことをテレビに出演している、おかまキャラクターの芸能人と似ていると思っていた。一時的にテレビで、もてはやされるけど時期が過ぎれば飽きられて消えていく彼らと同じだと思っていた。

 きっとボクのホモのキャラクターも長続きするわけがない。

 いつかボクの演じるキャラクターも飽きられてしまうのではないかと、内心ヒヤヒヤしていた。今は興味を持って話しかけてくれる同級生も、飽きてしまえばボクの存在価値はなくなってしまう。

 それでもボクには演技を止めることができなかった。

 ボクの精神状態はますます追い詰められ、学校も欠席が多くなったある日のことだった。

 下校時間になり、ボクは何人かの同級生と自転車置き場で雑談をしていた。ボクは愚かにも相変わらずホモのキャラクターを演じては同級生を笑わせていた。その時に同級生の一人が言った。

「ねぇ……さっきからあの子ら、こっちをジロジロ見てるよね?」

 同級生の視線の先を見ると少し離れた場所に三人連れの女子生徒がいた。彼女らはキャーキャー笑いながら、ボクらの方を見て話していた。

 

<つづく>

 

■太宰治 『人間失格』(青空文庫)

http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/301_14912.html