住吉奇譚集<4>

 ボクは門の前で一分くらい躊躇して立ち止まっていた。すると二十代後半くらいの男性が住吉のひょうたん池の方から歩いて来た。その男性は門の前に立っているボクと目が合うと、一瞬躊躇したように歩みを止めた。

 きっとこの人もゲイ仲間だろうな。

 お互いに目があった瞬間に同じことを思ったに違いない。その男性は再び歩き出してボクの方をチラチラ見ながら門をくぐって路地裏の一軒家のドアを開けて中に入って行った。

 間違いなくこの店がボクの目的地だな。

 そう確信したボクは、道路を渡って黒い自販機で水を買うことにした。すぐに店に入ってしまうと、さっきの男性と受付で出会ってしまう。そうなるとお互いに気まずいので少し時間を空けてから店に入ることにした。

 何度通っても有料ハッテン場に入るときは緊張するな……

 緊張とここまで歩いて来てせいで、喉が渇いていたので、ペットボトルの蓋を開けて水を飲んでいた。さっきから不審そうにボクを見ていたタクシーの運転手はいつのまにか姿を消していた。

 そろそろ店に入ってもいいかな?

 二、三分が過ぎた。ボクは道路を渡って門をくぐり、暗い路地裏を歩いて店の前まで来た。外観からはこの店がゲイ向けの店だと誰も判断できないだろう。入り口には店名を記載したシールが貼られていた。

 ボクは勇気を出してドアを開けた。ドアを開けて店の中に入るとチャイムの音が自動で鳴った。

「身分証をお持ちですか?」

 受付の前に立つと中から声がした。他の店と同様に受付の店員の顔は見えなかった。

「免許証でいいですか?」

「はい。お願いします」

 免許証を渡すのは抵抗があるけど、年齢の確認をするために必要なのだろう。年齢が若いほど入場料が安くなるシステムになっている店は多い。

「千五百円になります」

 ボクは店員にお金を渡すと、代わりにロッカーキーとタオルを渡してくれた。以前から思っているのだが、有料ハッテン場というものは、裏でどういった会社が運営しているのだろう。この金額で一日に十人から二十人くらいしか客が来ない店が多いのに儲けはあるのだろうか?と疑問に思うことが多い。福岡市内に店を構えて賃貸料も安くないだろうし、店員も雇っていて人件費もかかるだろう。さらに光熱費だけでもかなりかかるように思う。ほとんど慈善事業に近いのではないかと思っている。

「靴を脱いでから進んでください」

 ボクは指示された通り、靴を脱いでから暗いまっすぐな道を進んで行った。

<つづく>