職場でゲイとして生きること<14>

 翌日、どこで同僚から見られているか分からなかったので、なるべく手を振らないで出勤した。

「いや〜昨日は衝撃的だったな。まさか神原が両刀使いだったとは思わなかった」

 業務開始の前に、疑惑の原因を作った上司が席に着いて言った。ボクを弄るのが楽しくてしょうがないという風にニヤニヤと笑っていた。これは……飲み会だけで終わる雰囲気ではないなとボクは覚悟を決めた。

「神原って●●(男性の同僚名)のことどう思う?」

 急に隣に座っている先輩が訊いてきた。

「どうって……何をですか?」
「カッコいいとか思わないの?」
「全く思わないですよ!」
「じゃあ……●●(別の男性の同僚)のことは?」
「いや〜全く思わないですね。だから野郎には興味がないですって!」

 反応が止まって暗くなってはいけない。常に笑顔で軽く冗談を受け流しているという体を取らないといけない。

「神原さんって……両刀使いだったんですか?」

 ボクらの不思議そうに話を聞いていた、同じプロジェクトの派遣社員が会話に入ってきた。

「いえ……違いますよ」

 ボクは慌てて否定した。

「そうなんだよ。神原って彼女もいて男とも女ともヤリまくりだから。真面目そうに見えて性別関係なく無差別にヤリまくりらしいよ」

 ボクの否定は虚しくかき消された。あっという間に飲み会に参加していなかった派遣社員にまで変な話が広まってしまった。気がつくと仕事中でも同僚から両刀使い扱いされていた。ただ嫌がらせで言っているのではなくて、ボクを冗談を言って弄って楽しんでいるのは、同僚の顔を見ていても分かっていた。これまでのボクの書いた文章を読んでいただいた方には理解してもらえると思うけど、ボクは趣味の面も変わっていて、もともと同僚から変人扱いされていて弄られていたのだ。

 ただボクは職場の仲間が好きだった。弄られていても、それでも相手を弄って仕返しして楽しんでいた。仕事も好きだったし職場に行くのが毎日楽しみでしょうがなかった。逆に休みの日の方が何もすることがなくて暇でしょうがないぐらいだった。これは転職した今でも同じ状況だ。

 システムエンジニアになろうと思った理由を冒頭にも書いたけれど、もう一つ理由がある。それは独身でいても不思議に思われない職業を考えた時に、真っ先に思い浮かんだのがシステムエンジニアだったからだ。根暗なパソコンオタクで、他人と会話しなくてもパソコンと会話していれば、あの人は独身でいてもしょうがないよねというイメージがつくだろうと予想していた。失礼ながら、学生時代のボクは、物凄く偏見に満ちたシステムエンジニア像を勝手に描いていた。

<つづく>